「書く力」を中小企業診断士の強みに。文章を書く過程はとても論理的でした

さとゆみビジネスライティングゼミ3期を受講された廣瀬達也さん。廣瀬さんは「政治局長」という愛称でゼミ生から親しまれていました。ゼミでの思い出や普段のお仕事、廣瀬さんが属する羊齧協会についてなどを、さとゆみがインタビューしました。


Q1:廣瀬さんは「政治局長」というゼミネーム(ゼミ内で使われる呼称)でした。私も「局長」と呼んでいるので、今日は「局長」と呼ばせていただきます。

まず、「政治局長」というネームの由来を教えてもらえますか?

A1:「政治局長」は、「羊齧協会」という協会での肩書きです。ちなみに、代表は「主席」、代表を含めた発起人4名は「最高幹部」と呼ばれています。私は5番目に偉いという位置づけですが、役割自体は特にありません(笑)。

羊齧協会は、羊肉料理を食べるイベントを行って、羊肉のおいしさを世の中に啓蒙している協会です。「一度公式イベントに参加した方は自動的に仲間になる」という仕組みで、日本国内には現在2000人以上の会員がいます。今年で設立10年目になりました。全国の羊肉を取り扱っている飲食店の中では、首都圏を中心にだいぶ認知度が高まってきたと思います。

主席は普段イベントのコンサルティングなどの仕事をしています。主席に、イベント運営の仕方や自発的な組織の立ち上げ方、コミュニティの作り方などを書いてほしいと、書籍の執筆依頼があったそうです。自分の頭の中で考えていることを活字にする喜びを味わいながら、頑張って出版の準備をしていると聞きました。

Q2:以前、ゼミで羊齧協会の話を聞いたときから、「どんな組織なんだろう」と思っていたんです。「主席」や「政治局長」といったユーモアのある肩書きをつけて、自発的に様々な活動をしていて、すごく面白い組織ですよね。最近は、フォースプレイスといった「家と職場以外の居場所づくり」が大事だと言われているし、私、いま、そういった仕事上の利害関係のないチームの作り方にとても興味があるんです。

もっと羊齧協会の話を聞きたいところだけど、また今度にして、そろそろ本題に話を戻しましょうか。局長は、普段どんなお仕事をしているんですか?

A2:ITベンダーに勤めています。簡単に言うと、システムを開発して世の中に提供する仕事です。私の会社では、主に金融系・公共系の社会基盤に関わるようなシステムを作っています。

金融系だと、銀行さんが使うシステムを作ることが多いです。たとえば、地方銀行の共同センター。地方銀行さんにとっては、システムの開発や維持が負担になることがあります。そこで、我々のような会社が共有して使えるシステムを開発して、地方銀行さんに共同で使っていただく、ということをしています。公共系だと、国や自治体さんの電子申請・電子申告などのシステムを作っています。もしかしたら、さとゆみさんもお使いになったことがあるかもしれません。

私はお客様の会社に出向して、会社内でうまくシステムが運用できるようにサポートしています。お客様にご意見やご要望などをヒアリングして、自社に伝えるという橋渡し的な役割です。

Q3:局長の仕事の場合、一番大事な職能は何ですか?

A3:私の仕事だと、エンジニアとしての技術力はある程度必要になりますが、それよりも大事なのは「お客様と話す力」だと思います。お客様の目線で話を聞き、ご意見や要望をくみ取る。自社のエンジニアたちにシステムを改善してもらうためには、お客様のご意見やご要望をわかりやすく伝えなければなりません。

Q4:局長はなぜ私のゼミで学ぼうと思ったのですか?

A4:私は会社員をやりながら中小企業診断士としても活動しています。その活動の一環で、文章を書くことがあります。経営者にインタビューして記事を書いたり、ビジネス書のレビューを書いたり、年に一回は記事を書いて機関誌に掲載していただいています。記事を書くことをしているうちに、書くって面白いな、もっと書く力を磨きたいなと思うようになりました。

また、中小企業診断士は、講師として人前で話すことでお金をいただいたり、細かく経営分析をすることでお金をいただいたり、自分の強みを活かして活動している方が多いです。自分の方向性を考えたときに、書く力を磨いて中小企業診断士の活動に役立てていけたら気持ちが良いなと感じました。もう一歩踏み込んで、具体的に書くことを学ぼうとさとゆみゼミに申し込みしました。

中小企業診断士×ライターのような、何かコアとなる力を持っている人が書く技術を身につけられると、強みになると思います。

Q5:以前、編集者さんに「さとゆみさんのゼミは、なぜライターさんやライターを目指している方以外も受け入れているんですか?」と聞かれたことがありました。私は、ライター以上に、ライターではない職業の方にとって、書く技術はとても強い武器になると思っています。

ライターにとってのコアは書く技術です。ライター業界には書くことが好きで上手い人たちがたくさん集まっています。その中でさらに腕を磨きたい人が私のゼミを受講してくれることももちろんうれしいけれど、異なる業界の方が、自分のコアとなる部分をさらに強くするためにゼミを活用してくださるのは、とてもうれしいことだと思います。

そういう目線で受けてくださった局長、ゼミの内容はいかがでしたか?

A5:すごく面白かったですし、いろいろ確認になりました。受講前に考えていた「書く」ということが、ゼミを受けてさらに明確になりました。

読者対象に刺さる企画を考え、情報を集めて記事を書き、クライアントに納品する。この過程は、私の会社の業務とかなり近いと思いました。お客さんが求めているものがあって、それを調べたり察知したりして、使いやすいシステムを作って納品する。大きな流れは変わらないなと感じました。

ライターとして物を書くことは、「エッセイを書く」ようなイメージがありました。作家性のような優れた能力が求められていると思っていたのです。でも、読者を見据えて、文章を作っていく過程は非常に論理的でした。論理的に考えなくてはいけない場面は仕事でもたくさんあります。普段の仕事での考え方が、文章を書く過程でも活かせると感じました。

Q6:私の仕事のやり方や伝え方は、エモーショナルなところもあるけれど、かなりロジカルだと思います。ロジカルな部分を抑えられれば、どんな人でもある程度書けるようになると考えています。

局長のように、普段のお仕事で、誰かの言葉を他の人に伝えるという「翻訳」作業をしている人は、ライティングの上達がかなり早いと感じます。システム開発でいう「要件定義」に近いと思います。先方の求めている要望をくみ取って、ゴールを設定して、必要な素材を集めて、どう組み立てていくか。要件定義ができて、読者に伝えなくてはいけないことを整理できる人は、上達が早いです。

局長も、文章を書く考え方の軸が早い段階でストンと落ちたのではないでしょうか。考え方がわかると、そこから先、直すのは日本語だけになってくる。日本語はルールなので、車の運転と同じように、書いていくうちにどんどん上手く書けるようになると思います。局長は上手くなるのが早かったですよね。

A6:上手くなりましたか? ありがとうございます。さとゆみさんの講義を受けて、考え方が分かって「自分でもできそうだな」と思いました。まだできないところもありますが。

Q7:ゼミを受けて、文章のテクニック的なところで何か気づきはありましたか?

A7:個人的なエピソードから書き始める「エピソードファースト」というやり方が勉強になりました。私はわりと平坦な、淡々とした書きっぷりになることが多かったので、エピソードファーストは一つの有効な手法だなと感じました。常にエピソードファーストが使えるわけではないと思いますが、有効な場面を見つけたら活用していきたいです。

それから、「AだからB」「AなのにB」などの表現の仕方を言語化してもらえたことがよかったです。これまで無意識に使っていましたが、そういう手法があると言語化してもらうことで、手法として認識できるようになった。「ここでこの技を使おう」という構想が思いつきやすくなりました。

Q8:特に伝えたい主張があるときは、エピソードファーストは有効だなと考えています。

局長が話してくれたように、無意識でやっていることを言語化できると再現性が高まっていくと思います。

A8:「逆接ではない『が』を使わない」については、ゼミを受ける前から自分でも気がついていました。他の方の文章を読んで「が」の使い方が気になることが多かったので、自分でもやらないようにしようと気をつけていたんです。でも、さとゆみさんからはっきりと「やらないほうがいいよ」と言ってもらえたことで、より腹落ちしました。

Q9:必ずしもダメではないけれど、逆接ではない「が」を使うことで、一文が長くなりやすいし、読みにくくなる可能性が高まると思います。局長のように、自分の体験と照らし合わせて腹落ちできると、きちんと身につくなと感じます。本で読んだり、話を聞いたりしただけではなかなか身につかない。手を動かして、「さとゆみさんが言っていたことってこのことかな」と気づいて、初めて自分の血肉になるのではないかなと思います。

課題はどうでしたか?

A9:面白かったのはゲスト講師の方のセミナーレポートです。一方で、自著の企画書を作るという最終課題は力が入りすぎてしまって。私は、地元である兵庫県但馬地方で活動している人の挑戦を伝えるという企画書を作りました。これまで何度か書きたいなと思っていたことです。でも、準備不足で感情に走った企画書になってしまいました。本当はもう少し力を蓄えて、情報を集めてから書きたいと思っていましたが、課題だから今あるもので提出するしか間に合わない。今できるベストを尽くしました。

企画書を作りながら、読者範囲が狭いし、何万部を超えるようなものにはならないと感じました。さとゆみさんから講評でいただいたように、書籍にするのではなく、地域限定で配るような冊子にするといいのかなと、自分でも思っています。もっとブラッシュアップして、どこかに企画書として持っていきたいです。

Q10:局長の企画は、「幸せな置かれ場所」があると、すごく周囲に喜んでもらえるコンテンツになるなと思いました。

以前、神戸市の市役所さんが行っていたプレスツアーに参加したことがありました。そのときにいただいた、神戸市が作っていたパンフレットがとても面白かったんです。キャッチーな文章や写真で構成されていて、読み込んでしまいました。地域で作っているパンフレットなども、プロのライターさんが入ることで、より伝わりやすくなると思います。局長には、今後こういう仕事もやっていってほしいです。

ゼミでは、一緒に学ぶメンバーの文章もたくさん読んでもらいました。みんなの文章を読んでどうでしたか?

A10:綺麗な日本語が書けていて、すごいなと思いました。それでいて、熱量もこもっている。綺麗な日本語のままで熱い気持ちが伝えられていて、これがプロなのかと感心してしまいました。プロのライターさんたちは、本気で書くことに取り組んでいらっしゃる。講義や講評を通して、さとゆみさんとゼミ生の真剣なやりとりを見て、ものすごい場所に同席させてもらっていると思いました。

Q11:楽しんでもらえてよかったです。複数の人数でやっている甲斐があります。

読みやすさと熱量の話は、「どうやって二つのバランスを取るんですか?」とよく質問されます。でも、どちらかの割合を増やしたらどちらかが減るものではないと思います。読みやすさと熱量はバーターではないんですよね。美しい日本語のまま、熱量は伝わる。基本的には両立できるものなんです。

両立できるのならば、絶対に綺麗な日本語で書いたほうがいい。日本語を崩して書いたら一見熱量が高くなったように見えるかもしれないけど、人によっては読みにくく感じる人もいます。綺麗な日本語で書いて、ここぞというところだけちょっと崩すのがいいと思います。「ここだけ勢い余って崩れてしまったんだな」というのが伝わると、よりグッとさせる文章になる。倒置法もそうです。正しい文法を使えてこその倒置法なので。

A11:そのギャップがインパクトを与えるのだなと思いました。

ゼミでは、知っておかなければ怖い、ちゃんとわかって使わないといけないなと思うようなこともたくさん教えていただきました。「は」と「が」の使い方一つで、文章が与える印象が異なる、というような。

Q12:ゼミが始まってしばらく経ったとき、「一回書けなくなりました。何を書いていいかわからなくなりました」と言っていた方がいましたよね。でも、それは何かを学ぶときの適切なプロセスだと思っています。何気なくやっていたこと全部、「本当にこれでよかったんだっけ?」と、立ち止まる段階が必ず出てくる。

今まで5色の色鉛筆で絵を描いていたけど、学んで解像度が上がったことによって、36色くらいに使える色鉛筆が増えた。そうすると、「あの山はこの色でいいんだっけ?」と立ち止まって考えるようになる。みんなが一回書けなくなるのは、こういうことなのかなと思います。ぼんやりとしか見えていなかったから、速く書くことができた。でも、今はくっきり見ているから、悩むことも増えたということなんだと思います。

A12:ゼミを受けている間、「解像度」という言葉がとても心に残りました。通勤電車の中でも解像度を上げようと意識して、吊り広告を見たりしていました。

Q13:普段生活していると、見たいものしか見ないし、聞きたい言葉しか聞いていないことが多いと思います。でも、ライターの仕事には、見えないものを目を凝らして見ようとしたり、聞こえないものを耳を澄まして聞こうとしたりとすることが必要になります。

この前、あるライターさんと話していたときに公衆電話の話題になりました。私が「公衆電話ってなくなったよね」と言うと、そのライターさんは、「なくなってませんよ。国が定めた基準に則って、1平方キロメートル以内に1台といった感じで設置されているはずです」と言ったんです。それを聞いて、意識して街を歩いてみたら、自宅の近くにも確かに公衆電話があって。見ていなかっただけだったんだなあと思いました。どれだけ自分が興味のあるものしか見ていないのか、しみじみ実感しました。

A13:そういうことはよくありますよね。普段見ている景色を改めて写真で見ると、今まで気づいていなかったものが急に目に飛び込んでくることがあります。でも、そうでないと生きていけないところもあるのかなと思いました。

Q14:たしかに、全部見よう、全部聞こうと思っていると、脳のメモリがパンクしてしまうと思います。休ませるときは、きちんと休ませることが必要です。でも、インタビューをするときは、その意識を開いていかないといけないと思います。

A14:全部見たうえで拾うものを拾い、拾わないものは拾わないと分ける、ということでしょうか。「見えていなかったから拾わなかった」と、「見えていたけど、あえて拾わなかった」のでは、だいぶ意味が違ってきそうです。

Q15:その通りだと思います。ライターは、見なかったふりをすることがよくあると思います。編集者をしていると、「取材相手は話してくれたけど、ちょっとよくわかんなかったし、書くの不安だから、ここは飛ばしちゃおう」という原稿がある気がします。でも、わからなかった部分をその場でわかるまで聞けたら、もっと良い原稿になったかもしれません。理解できるまで聞いた結果、ここは書かないと決めるなら全然良いけれど、理解できなかったから書かないのは、全然意味が違うなと思います。

局長は、この先のプランを何か考えていたりしますか?

A15:退職が近い年齢なので、今年はせセカンドキャリアやセカンドライフを真剣に準備したいと思っています。 この先のこと、つまり会社員ではない自分として踏み出すときのことを考えて、ゼミを受講したという理由もありました。これからは本格的に中小企業診断士としてコンサルティングをしていこうと考えているので、準備を進めています。文章が書ける中小企業診断士になりたいです。

Q16:書く仕事とコンサルティングはとても相性がいいと思います。ライターさんがコンサルタントになっていくことはとても多いです。WORDSの竹村俊助さんが「社長の隣に編集者を」とよくおっしゃっています。私も、企業がライターを雇えるかどうかで株価が大きく変わるんじゃないのかなと考えています。ライターや編集者は、社長の思考を引き出して言語化するお手伝いができる。社長の相談相手になりやすいのかなと思います。そういう役割はすごく需要があるなと感じています。

A16:それはまさにコンサルティングですよね。社長の頭の中がきちんと整理されていると、会社として発信されるものがクリアになっていく。中小企業診断士の仕事の領域ですが、ライターさんでもすごく効果が出せると思います。そういった役割を私も担っていきたいです。

Q17:局長も、いずれ経営者の言葉を言語化していくような仕事をしていそうです。

拠点は地元の兵庫でしょうか?

A17:兵庫を拠点にしたいと思っています。東京にも拠点があったほうがいいとアドバイスをいただいたことがあるんですが、どういう形がいいのか迷っています。

先日、地元の商工会の方とご飯を食べたときに、地元企業の発信を頑張っているという話を聞きました。会社紹介などの記事を熱意を持って書いていらっしゃるそうなんです。私にも書かせてほしいと思って、誰が書いているのかお聞きしました。すると「地元の編集業者にお願いしています。地元のためにもなるので」とおっしゃって。だから「私が地元に戻った際にはぜひ書かせてください」とお願いしました。

Q18:地産地消されていてすばらしいですね。今後、地方のライターの方は、地域に密着して、地域の人たちと深くつながっていくことがすごく大事になっていくと思います。地域には、「○○さんに最初に話を通さないと何も動かないよ」のような、その地域ならではの暗黙知があったりする。人とのつながりや暗黙知を掴むことは、AIにはできないと思います。AIが文章を書くようになって、ライターの仕事はどんどん減っていくと思うけれど、地域で活躍しているライターさんの仕事はなくならないような気がします。

A18:以前「卒業生インタビュー」で、さとゆみさんが「地方のライターさんは、地元のことをなんでも知っている「名士」のような存在になると活躍の場が広がる」とお話しされていましたよね。私も地元の方に頼られたり、地元のことをなんでも知っているような存在になれたらと、とても興味が湧きました。
(※卒ゼミ生インタビュー:偏愛ライター/kaoruさん『今までの経験は書く仕事で活かせる。ライターへの転身は無謀な挑戦ではなかった』

Q19:熊本でライターをしている私の友達の話ですよね。彼女は様々な場に呼ばれて、いろんな方のご相談に乗っていらっしゃいます。人を紹介して、ご縁をつなぐようなこともしていて、彼女が地域のハブ的な存在になっている。ぜひ、局長にはそこを目指してもらいたいです。「但馬といえば局長」と言われるような。

A19:はい。これまでの経験と、さとゆみゼミでの学びを活かしながら、「但馬といえば局長」と言ってもらえるように頑張ります。3ヶ月間ありがとうございました。


(構成・文/玄川 阿紀)

プロフィール
廣瀬達也

中小企業診断士/大学院生/映画館スタッフ/ITベンダー社員
兵庫県養父市出身。神戸市在住。ITベンダー勤務の中小企業診断士。地域の経営者インタビュー記事などを執筆。大学院博士前期課程に在籍し「民族芸能とコミュニティの関係」について研究中。映画館ボランティアスタッフとして地域密着型映画館運営のお手伝い。羊をタグとして交流を図る羊齧(ひつじかじり)協会に参加。

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