「一文を短く」「ABの法則」「カロリーを使わせない」ぶつぶつ唱えながら書いています

Q1:かほるさんとの対談は、急遽スケジュールを入れ替えたこともあり、二度目ましてですよね(笑)。この対談が実現できて、何よりです。早速ですが、自己紹介をお願いします。

A1:神戸を拠点にフリーランスライターとして活動しています。フリーランスになってから、4年目です。今は企業のオウンドメディアでのインタビュー記事のほか、医療機関で働くお医者さんや大学の先生の研究内容などの紹介記事を高校生向けメディアで執筆しています。最近は、ブックライティングのお仕事も紹介していただき、新しい企画を進めているところです。

Q2:フリーランスになる前は、どういうお仕事をされていたんですか?

A2:大学を卒業してから、食品メーカーで働いていました。営業企画から広報室へ異動して、社内報を発行する仕事に従事しました。その後、大学職員に転職して、同じく広報として10年近く働き、大学の広報誌などを作っていました。ライター業ではありませんでしたが、文章を書く仕事に携わっていました。

Q3:会社員や大学職員として長年キャリアを築かれていたんですね。そこから組織を離れるのは、勇気が要りませんでしたか?

A3:そうなんです。ただ、40歳を過ぎ、子育てと親の介護との両立を考えると、当時は時間的な余裕がなく、このまま働き続けるのは難しいと感じていました。これからの人生を考えると、新たな働き方にチャレンジするなら今かもしれないという気持ちもあり、悩んだ末、退職することを選びました。その時点でライターになる、と決めていたわけではなく、辞めてからどんな仕事をしていくか考えることにしたんです。

Q4:それからライターになるまで、どのような道のりだったんでしょうか?

A4:知人の繋がりで、NPO法人の広報の原稿を手伝う機会をいただけたんです。これまでも、広報として文章に関わってはいましたが、ライターとしては素人だったので、自信はありませんでした。だけど、執筆に時間がかかっても、まったく苦にならなくて。むしろ、楽しいと思っていることに気づいてから、「ライターとして頑張っていこう」と決心しました。まず自分の名刺に「ライター」と書くところから始めました(笑)。

Q5:そこから、ライターの仕事をどうやって見つけられたんですか?

A5:初めての仕事はインターネットで「ライター 初心者 募集」などのワードで検索をしながら探しました。当時見つけられたのは医療関係の媒体でのお仕事です。お医者さんの想いや人となりを患者さんへ伝えることがメインだったので、専門知識はそこまで求められず、ライター初心者でも任せていただけました。媒体に所属はせず、業務委託で引き受ける仕事でした。

Q6:初めてライターとして受けられたお仕事は、いかがでしたか?

A6:自分の原稿のクオリティに不安を覚えました。媒体に合った書き方ができているかどうか、反響がどれくらいあるのか、など自分の原稿に対する評価が見えづらかったからです。当時の案件は、期日までに納品できればOKという方針で、原稿に対するは赤入れやフィードバックが無い環境でした。

Q7:それでもライターとして活動を続けられたのは、どうしてだったんでしょうか?

A7:やっぱりライターとしての仕事に楽しさを見出していたからだと思います。特に私は取材が好きで、知らない話を聞かせてもらえることが楽しくて、毎回、興奮するんですよね。その上、仕事として報酬もいただける。この道で稼げるのであれば、こんなに自分にあった仕事はない。絶対、続けたいと思ったんですよ。その考えは今でも変わりません。

Q8:仕事はどうやって増やしていったんですか?

A8:まず、案件と媒体を増やしていきました。最初にご縁のあった医療関係の媒体だけではなく、大学職員の経歴を活かせるような媒体をインターネットで探してみたんです。面接やテスト原稿による選考を経て、月2~3本のペースから月10本程度になりました。

それでも正直な話、最初は金銭的に厳しかったです。今も、大学職員のころの収入までは届いていません。ただ、決められた時間に出勤していたころと違って、ライターはどこでも仕事ができますし、自分で働く時間を決められます。合間に時間を作って実家の手伝いに行ったり、子どもが帰宅する15時以降は仕事をしないなど稼働時間を調整して、やりたいことができているので、収入以上の満足感があります。

Q9:仕事は関西圏が中心ですか?

A9:私は神戸を拠点に活動していますが、今いただいているお仕事の案件は、必ずしも関西とは限りません。対面取材が中心のコロナ禍以前は関西圏の仕事が多かったですが、オンライン取材が中心となった今、たとえば北海道や九州の案件などもあります。取材先が増えていくのと同時に、執筆内容の幅も広がりました。

Q10:かほるさんと同じように、40歳から未経験でライターになる方へアドバイスはありますか?

A10:今は副業がしやすい環境が整ってきているので、すぐに仕事を辞めず、少しずつライティングに挑戦するのも、ひとつの方法かなと思います。本業で収入の柱を1本持っておくことは強みですよね。副業としてライターを始めてみて、「この仕事が好きだ」という気持ちがあれば飛び込む、という順番で良いのかもしれません。

Q11:かほるさんは、上阪徹さんが開講されているブックライター塾にも通われていましたよね。どのようなきっかけで通われたんですか?

A11:ライターとして生きていくために、どの分野に進んだらいいか悩んでいて。というのも、それまで執筆の本数は徐々に増えていましたが、記事の単価が低く、収入を増やすには数をこなすしかなかったんです。そんな時期に上阪先生のご著書「職業、ブックライター。」と出合って、ブックライティングという仕事があることを知りました。ブックライターは、ひとりの著者の方とじっくり関わり、話を伺う仕事。取材が好きな私にはとても魅力的に感じられ、ブックライター塾の門を叩きました。

Q12:ブックライター塾では、どんなことを学ばれましたか?

A12:特に印象に残っているのは、「相場観」の話です。講座で取り組んだ課題の添削でも、ご指導いただいた内容の中心は相場観でした。読者が感じる面白さと、ライターが考える面白さがあるうちの、「それは読者が思う面白さかな?」という問いかけをいただいて、視点が改まりました。

Q13:今はブックライティングのお仕事もされているんですよね。実際にブックライティングされてみて、いかがですか?

A13:目次づくりや章立てなど、ブックライティングならではの仕事に難しさを感じながらも、楽しく取り組ませていただいています。今までの案件も並行して続けていますが、ブックライティングにはまだ慣れていないこともあって、バランスを見て仕事量とスケジュールを調整しています。

やはり、インタビューが楽しいなと思っていて。著者の方の体験話を聞いて、いざ書くときに自分の中に落とし込む作業まで、好きな工程です。「聞く」と「書く」の両方を体験して、より話の本質に近づける感覚があります。

Q14:書いてみて初めて、取材時には気づいていなかった発見をすることってありますよね。

A14:不思議ですよね。テープ起こしを読みながら、「え!こんなことお話しされていたっけ?」と驚くこともあります。書くことは苦しくもありますが、楽しさの方が大きいです。

Q15:ブックライター塾を経てご活躍されているかほるさんが、さとゆみゼミに来てくれた理由は何だったんでしょう?

A15:もともとブックライティング塾を通じて、さとゆみさんのご活躍は存じ上げていました。さとゆみさんは憧れのライターで、『書く仕事をしたい』も、出版後すぐに読んで。「さとゆみさんはここまで“書くこと”について考えられているのか」と感銘を受けましたし、読みながらわくわくしました。そんなさとゆみさんからライティングを学べる宣伝会議の講座を検討していたんですが、悩んでいる間に、定員に達してしまって。申込に間に合わなかったとわかって、すごく後悔していることに気づいたんです。当時の気持ちが後押しとなって、今回ライティングゼミの開講を知ったときは「もう後悔しないぞ」という気持ちですぐに申し込みました。

Q16:実際にライティングゼミを受講して、いかがでしたか?

A16:いつまでも興奮状態が続くようなゼミでした。特に驚いたのは、初日の出来事。さとゆみさんが、もともと予定していたカリキュラムをまるごと変更されるとおっしったんです。メンバーを見て、一番求められていることを臨機応変に提供しようとしてくださるところがすごいな、と心の底から思いました。さとゆみさんご自身も考えながらの学びの場を提供してくださいましたよね。次回は何をするのか、最終回のプレゼンには何が待ち受けているのか、わからない状態でドキドキしていました(笑)。

Q17:最終課題は最後まで悩んでいました。エッセイを書きたい人、書籍を書きたい人と希望もさまざまでしたし、フリーランスの方も会社員の方もいたので、「みんなで取り組めるテーマ」にしたかったんですよね。やっぱり、きつかったですか?(笑)

A17:きつかったです(笑)。ただ、そういう課題を設定してくれないと、自分ではできないので、ありがたかったです。

Q18:かほるさんの最終課題、とても面白かったので、きっと書籍化してほしいなと思っています。

A18:ありがとうございます。さとゆみさんにそう言っていただけると、不思議と実現できそうな気がしてきます。もともと学びたいと思っていた企画の話をたくさん学べたのも、すごく大きかったです。特に「通すための企画」という教えが、目から鱗で。それまでは「良い本を書くための企画」と思っていたんですよね。ただ、企画を通さないと本にならないから、まずは企画を通すために、わかりやすく編集者さんにプレゼンをする、という考えに合点がいきました。

Q19:往々にして、書籍が出るまでに、最初の企画が変わることはよくあります。だからまずは、企画を通して、スタートラインに並ぶことが大切なんですよね。やっぱりライターとして企画を立てられることは強みだし、ぜひ身につけてほしいと思っていました。

A19:テーマと切り口のふたつの目線を持つことも、ゼミで何度もさとゆみさんがお話くださったのを覚えています。ゼミのみなさん面白い切り口を持たれている方々ばかりでしたよね。ライターではない方の視点もすごく新鮮で。私は、ライターとして人のことを書く機会が多いこともあるからか、自分のことを書くことがかえって難しく感じました。そんな発見さえも、勉強になりました。

Q20:ゼミの内容でお役に立てたことはありますか?

A20:たくさんあります。たとえば、読みやすさと文章のねじれ防止に繋がる「一文を短く」「ABの法則」といったテクニックです。今でも書くときは、それを意識しながら、ぶつぶつ唱えています(笑)。ほかにも、「二度読みさせない」「読者にカロリーを使わせないように書く」「小骨を抜く」など、読者を前提とする考え方も教わりました。

ゼミの内容は『書く仕事がしたい』にも書かれていたことが中心ですし、ほかの文章術の本でも、似たことは書かれていたかもしれませんが、読んでいるときは「そうだな」だけで終わってしまい、身になっていないこともあったなと改めて感じました。毎週ゼミでさとゆみさんにご指導いただきながら、仲間と一緒に取り組むことで、自分に落とし込んで習慣化できました。

Q21:まず書いてもらって、つまずいたときに、どう解決するかみんなで考える。この体験を通じて、初めて「書く」技術が身体に染みると思うんですよね。

A21:さとゆみさんの説明は「格言」が豊富ですし、たとえ話もたくさん交えながらお話くださったので、記憶に残って覚えやすかったです。

Q22:ゼミ生の原稿を読んで、違和感を覚える部分に対して「なぜこのポイントで違和感があるんだろう?」「どうやって説明すれば伝わるだろう?」と、自分でも考える機会となりました。修正が必要な原稿に対して、私自身の言語化が進んだ感覚です。

A22:朱入れって、難しい作業ですよね。もともと広報として働いていたとき、人が書いた文章に対して、根拠をきちんと説明できないので朱を入れるのは苦手でした。さとゆみさんの添削は、すとんと落ちてきました。

私は「論理のねじれ」をよく指摘されました。さとゆみさんの論理的な思考も学びたいと思っていたので、ありがたかったです。ほかの人の原稿でも同じように「論理のねじれ」を指摘されている部分を私なりに考えてみながら、少しずつ理解を深めていけました。それでも、今後同じミスをしないかというと、まだ自信が無くて。逆質問になってしまいますが、どのように鍛えればよいでしょうか?

Q23:難しいポイントですよね。「A=B、A=Cであれば、B=C」と「A=B、A≒Cであれば、B≠C」について理解するのがコツだと思います。関係性を正しく理解しないままだと、ねじれてしまいやすいので。ゼミの内容で腑に落ちない部分があったら、また一緒に考えましょう。

A23:ありがとうございます。今はKJ法の本を読んだり、教えていただライティングツールを活用したりしながら、論理展開ができるように試行錯誤を続けています。

Q24:ブックライティングで論理のねじれが起こってしまうと、影響がすごく大きくて。というのも、書籍のようにボリュームがある原稿は、文章単位、段落単位、章単位でねじれが発生し得るんですよね。構成の修正は3ヶ月~半年ほど出版が延びるケースもあるので、やっぱり論理のねじれは避けたいところです。企画と構成がちゃんとできれば、食べていけると思います。

A24:構成力あってこそ、という話は上阪先生もおっしゃっていましたよね。自分の構成力や文章力が至らず、インタビューで伺った素晴らしいお話を伝えるときに、その魅力が半減してしまう可能性が否めなくて、怖くさえあります。それを少しでもなくしたい気持ちでゼミに臨みました。

Q25:私も、毎回不安と背中合わせで書いています。書き進めるたびに、「文章の可能性」が減っていく感覚が、また怖いんですよね。それでも、仲間と「書くこと」について真剣に話ができることが楽しい。

A25:本当に、話が尽きないですよね。こういう場が無いと、ライターは孤独な仕事だなと思いますが、さとゆみゼミのおかげでとても充実していました。ありがとうございます。「良い原稿を書こうと思ったら、良い人になればいい」という教えも印象に残っています。毎日意識して、書けるようになるために少しずつ生活の見直しをしていくつもりです(笑)。アドバンスコースも、引き続き受講しますので、これからもさとゆみさんに食らいつきながら、書くことを極めていきたいです。

(文・構成/ウサミ)