自分の原稿に潜む課題が見つかった。心に残る原稿を書くヒントが掴めました

さとゆみビジネスライティングゼミ3期を受講されたぶんたまさんこと、笹間聖子さん。笹間さんは、編集プロダクションで経験を積んだのち、ライターとして独立されました。現在のお仕事やゼミでの思い出を、さとゆみがインタビューしました。


Q1:笹間さんは大阪でライターの仕事をしているんですよね。いつからライターをしているんですか?

A1:フリーになってからは3年程経ちますね。編集プロダクション時代を入れると、20年ライターの仕事をしています。編プロは2社勤めましたが、両方とも倒産してしまったので、フリーライターとして独立することにしました。倒産の1週間ほど前に、社長が「フリーになるなら、今の担当の仕事をそのまま持っていっていい」と言ってくれました。最初から仕事がある状態で独立できたのは、不幸中の幸いだったと思っています。

編プロ時代からお付き合いのあるデザイン会社さんや制作会社さんには、今もお世話になっています。私の得意なジャンルなどもご存知なので、よくお仕事をご依頼いただいています。

Q2:そもそも、なぜ書く仕事をしようと思ったのでしょうか?

A2:梅田の駅を歩いているとき、たまたま編集・ライター養成講座のポスターに目が留まって、面白そうだなと8期の講座を受けることにしたんです。新卒で入った会社がかなり忙しくて、別の道を探そうと退職した頃でした。派遣で働き始めて時間に余裕ができたので、習い事でもしようかなと思っていたんです。

本を読むことは好きでしたが、講座を受けるまではあまり書くという経験をしたことがありませんでした。学んでいるうちに、書くことが楽しいと思うようになりました。様々な媒体で活躍している編集者さんが講師になってくださるので、わくわくしながら講義を受けていました。出版業界って華やかな業界なんだなと感じました。

Q3:編集プロダクションにはどのような経緯で就職されたのですか?

A3:編集・ライター養成講座で、講師の方が「出版業界に入ったらずっと仕事をしていけるから、とにかくどこかに潜り込みなさい」とおっしゃられていたので、未経験者もOKだった編プロに入社しました。

編プロで一番最初の仕事は、映画のフリーペーパーです。社長が映画好きだったので、自社で映画のフリーペーパーを作って毎月5万部刷っていました。でも、予算がなかったので、自分たちで手押し車にフリーペーパーを詰め込んで、ガラガラと大阪市内を引いて歩いて、配っていました。2社目の編プロでは情報誌の仕事が中心でしたが、時代の流れで関西の情報誌が無くなっていき、企業の社内報や会員誌、ウェブや広告のコピーライティングなど、仕事の幅が広がっていきました。

編プロに勤めてよかった点は、カメラマンさんやデザイナーさんとのつながりができたこと。それから、ライターの先輩が原稿をチェックしてくれて、赤字をもらえたことですね。書くことに関して、実践で鍛えていただきました。

ライターになるために、編プロに就職するのも一つの方法だと思います。でも、基本は体力勝負なので、長く続けることが難しい人はいるかもしれません。「何年間続ける」と決めて、その間にしっかりと経験を積むのも手だと思います。

Q4:宣伝会議さんでやっていた私の講座を受けに来てくれたのは、笹間さんがフリーになってからでしたよね?

A4:はい。フリーになってすぐの頃でした。当時、あまりコラムを書いたことがなくて、どうやって書くのだろうと思っていたんです。そんなとき、宣伝会議さんでコラムの書き方を教えてくれる講座が開講されると聞いて、すぐに申し込みました。その講座の講師の一人がさとゆみさんでした。

さとゆみさんの講義では、「ロジカルに書く」ことを教えてもらいました。私はそれまで感覚的に文章を書いていたので、さとゆみさんが具体的に「書くこと」を細かく分解して解説している点に、新鮮な驚きを覚えました。

Q5:笹間さんが講座で書いてくれた課題を、今でも覚えています。お父様が亡くなったときの話を書いてきてくれましたよね。しかも、亡くなってすぐのことでした。美しい話だけではなく、お父様の困ったところも書いてくれていましたよね。親御さんの死について書かれているコラムを講評するのは、ものすごく難しいなと感じました。でも、文章を書くことは「喪の作業」のようなところがあると思うので、書いて昇華してもらったほうがいいような気がして。笹間さんに「お父さんのことをちゃんと書いたな」と思ってもらえるといいなと考えながら、講評しました。完成した原稿がnoteに載っているのを見たときは、ジーンとしました。

A5:ありがとうございます。一回提出して、講評をいただいて、その講評をふまえてもう一回提出したんですよね。さとゆみさんが「講座が終わってから出してもいいよ」とおっしゃってくださったので、「noteに書きました」とメッセージを送らせていただきました。さとゆみさんにいただいた講評のおかげで、父の人柄が早く分かるようにガラッと構成を変えたり、印象的なエピソードを膨らませたりすることができました。今もnoteにその文章が残っているので、読み返すと「あのとき、こんなことがあったな」と思い出します。書いてよかったなと思います。
(※笹間さんの書いたnote:「急変しても、人工呼吸器をつけたり心臓マッサージを行わないでください」

Q6:今回、なぜ、さとゆみゼミを受講してくれたのですか?

A6:宣伝会議さんのコラムの書き方を教えてくれる講座は、講師が交代制で、さとゆみさんの担当する回は3回だけでした。それでいつか、さとゆみさんの講座をもっとじっくり受けてみたいなと考えていたんです。さとゆみゼミの1期と2期は体調が悪くて受けられなくて、ようやく3期で受講することができました。

Q7:実際に受けてみて、どうでしたか?

A7:私の原稿は、編集者さんから「スラスラ読める」と言っていただけることが多くて、ありがたい反面、実はその感想に悩んでいました。「スラスラ読めるってどうなんだろう。何か心に残るものがないとダメなんじゃないのかな」と課題を感じていたんです。上手い人の原稿は心に残るものがある。どう変えていけばいいのだろうと考えていました。

さとゆみゼミを受けて、心に残る原稿を書くヒントが掴めたような気がしています。さとゆみさんのインタビュー記事を書く課題で、私は無意識に、印象に残った言葉を中心に原稿を組み立てていました。でも、さとゆみさんから講評をいただいて、原稿としては読めるけれど、この書き方では何も残らないと気づくことができました。入れたいと思った言葉だけをつないで原稿を構成すると、軸がブレてしまう。ワンメッセージにならないんですよね。そのせいで、メッセージ性のない原稿になってしまっていたのだと気づきました。私の原稿の問題点を発見できたことが、ゼミでの一番大きな収穫でした。

Q8:笹間さんには、講評で「入れたい言葉に執着しているかもね」と話しましたね。取材相手のキラッと光る言葉だけを並べて原稿を書いても、物語として大きくうねらせることはできません。一番強く伝えたいメッセージがあったとしたら、ストーリーラインを優先して、そぐわないものは思い切って捨てる勇気が必要だというようなことをお話しさせていただきました。
私は、原稿は料理と似ているところがあるなと思っています。コース料理でたとえると、前菜やスープがあるからメインディッシュが際立つように。

問題点に気づいて、何かできるようになったことはありますか?

A8:ストーリーラインまで完璧にでてきているとはまだ言えません。波があるように思います。でも、宣伝会議のコラム講座でさとゆみさんに教わったように、とりあえず、書きたいことを声に出すようになりました。書く前に、「この原稿はこれを伝える」とメッセージを声に出して言って、自分に記憶させているんです。自分の意識と原稿の方向が合わせやすくなったと感じています。

Q9:笹間さんは、上阪徹さんのブックライター塾にも通っていましたね。上阪さんは、インタビューが終わったあと、奥様に「今日こんなことを聞いたよ」と話すのだそうです。上阪さん曰く、「そのときに話す順番で書けば面白い原稿になる」と。「最初に伝えたことが掴みになるから、その掴みから書き出せばいい」と、私も上阪さんから習いました。同じように、声に出してみるのも、原稿の構成を考える一つの方法ですよね。

ゼミの受講中、大変だったことはありますか?

A9:ゲスト講師の方が来てくださった第6回目頃から、とてもきつかったです(笑) 先ほどお伝えした自分の原稿の問題点がまだ見つけられていなかったので、わからないままに書いていました。書いてみては「どこか違う」という時と「書けた」と感じる時の波があり、それがしんどかったように思います。

Q10:さとゆみゼミには個性あふれるメンバーが集まっていました。ライターになりたての方もいれば、初めて原稿を書く方もいました。ライターとしてキャリアの長い笹間さんから見て、皆さんの原稿はどうでしたか?

A10:情熱があって、エネルギッシュだなと感じました。いい意味で、型にはまらない書き方をしている人が多かったように思います。セオリーを知らないからこそ、その人らしさが全面に出た原稿になっているのだと感じました。みんな、とてもキラキラしていました。

Q11:現在はどのようなお仕事が多いのですか?

A11:子育て系のWebメディアや教育系の雑誌、ホテル業界の専門誌、医療のWebサイト、発酵食品会社の会員誌などを中心に書いています。コロナが少し落ち着いてきて、インタビュー記事の他に、ポスターやカタログなど、広告系のコピーライティングの仕事も増えてきました。取材には立ち会わず、音声だけをいただいて原稿を書くこともあります。

大体、一ヶ月に20~30本くらい執筆していると思います。1日1本書き上げるのが理想ですね。半日でざっと書いて、残り半日で調整して完成。ただ、集中できなくて原稿が進まないときは、完成までに一日半かかります。

Q12:早く書き上げるために、工夫していることはありますか?

A12:上阪先生に教えていただいた書籍の書き方を参考にしています。テープ起こしを印刷して、原稿に使う箇所に線を引き、話の内容ごとに付箋でわけていく方法です。この作業をしてから原稿を書き出していくと、わりと文字数があふれてしまうので、改めて全体を俯瞰しながら調整して、完成までもっていきます。4000字以下の原稿を書くときは、印刷したテープ起こしに線を引くだけで、付箋でわけることはあまりやりません。

Q13:笹間さんは印刷するタイプなんですね。私はパソコンの画面だけで完結させるタイプです。A4のWordが2枚横に並ぶサイズのモニターがないと、インタビュー原稿を書くのに著しく時間がかかってしまいます。時間管理はどんな感じでしていますか。1日のスケジュールを教えてください。

A13:我が家は、私と在宅仕事の夫、新4年生になる子どもの3人で暮らしています。私は9時頃に契約しているシェアオフィスに出かけて、18~19時頃まで仕事をして帰宅します。夫は大体家にいるので、夕飯は夫が作ってくれます。ごはんを食べて、お風呂に入って、子どもを寝かせたあと、私も寝落ちしてしまいます。夜中の3時頃に一度目が覚めて、そこから少し仕事をして、5時頃に再び寝る……という日が多いです。

ありがたいことに、最近、仕事の量が増えてきていると感じています。コロナが落ち着いてきたので、動き出す企業が多いのかもしれません。

Q14:シェアオフィスって、どうですか?

A14:以前はその日ごとに自宅や、コワーキングスペースを利用しており、シェアオフィスを利用し始めてから、一ヶ月半くらい経ちました。家にいるとつい子どもの世話や掃除をしてしまうので、契約してよかったと思っています。クラシックが流れているのが自分には合っているようで、居心地がいいですね。ゆったりした環境で、リラックスして仕事ができています。オープンしてからまだ日が浅く、利用者が少ないので、バリバリ使わせてもらっています。

Q15:この先は、どんなライターになっていきたいですか?

A15:引き続き、教育や子育てのジャンルに取り組みたいです。医療や科学のジャンルも好きなので、これからも書いていきたいです。医師の方は、普段から患者さんに病気の説明をしているので、難しいことをわかりやすく話してくださるのが聞いていて楽しいです。科学者の方もそうですね。取材していて面白いですし、今後も書いていけたらいいなと思います。

あと、年齢とともに体力が衰えていくのかなと考えることがあって……。最終課題でお話ししたように胃腸も弱いですし(笑)。できれば、書籍のライティングの配分を増やしていけたらなと考えています。書籍の仕事は取材よりも書いている時間のほうが長いので、年齢を重ねてもやっていけそうなイメージがあります。今は電子書籍のお仕事が多いので、商業出版の書籍のライティングも増やしていけたらいいなと考えています。

Q16:10万字くらいの書籍のライティングが向く人と、3000,4000字のライティングが向く人、それぞれいますよね。書いていて気持ちのいい文字数も違うなと思います。
私は短距離走タイプなので、書籍よりもWebのインタビュー記事が向いているなと感じます。5000字くらいが一番気持ち良いと感じます。
笹間さんは、私とは違うタイプなのかもしれませんね。きっと、コツコツと書くことがあっているんですね。

ところで、笹間さんから見て、大阪でライターの仕事をする良さはありますか? 大阪や京都、神戸にいるライターさんは、東京のライターさんより仕事が回っているように見えます。

A16:これは良くも悪くもですが、様々なジャンルをまたいで仕事をしている方が多いと思います。いろいろなことをやらないと食べていけないので、「なんでもやります」と言って仕事をしていますね。そこは関西圏ならではなのかもしれません。

ただ、「ライターとして長く働きたいなら、何か専門のタグをつけたほうがいい」と聞く機会が増えたので、内心ガーンとショックを受けています。これまで手広くやってきたので……。

Q17:私は手広くできることも素晴らしいと思いますよ。専門にした業界が衰退してしまうこともあるし、タグを絞るリスクもあります。様々なジャンルをやって、リスクを分散したほうがいい。笹間さんのように、多くのジャンルができるのは理想的だなと感じます。

A17:そう言っていただいて安心しました。「何でも屋」ではダメだ。タグを絞らなきゃと思ってしまっていたので。

Q18:私は、タグは絞るものではなく、増やすものだと思っています。そして、仕事先によって、「これが得意です」のタグの出し方を変えていけばいいと思うんですよね。

もちろん、専門のあるライターさんがダメなわけではありません。専門になると、業界のアドバイザーといった、ライター以外の仕事が増えてきて幅が広がると思います。でも、専門を絞るのは、すごく好きなジャンルと出会ったときだけでいいと思うんですよね。

もし、好きなジャンルができたら、その割合を少しずつ増やしていけばいいと思います。8割、9割と増やしていって、残りの2割、1割で別のジャンルをやるといったやり方でいいように思います。その場合も、好きなジャンルで旗を立てたり、仕事を増やしたりしたからといって、他の仕事が一切こなくなるわけではないと思います。

例えば、教育や医療が得意でよく書いていたという「昔とった杵柄」はこれからもずっと使えると思いますよ。タグを減らす必要はないと思います。

A18:これまでやってきた仕事をばっさりと捨てるのではなく、割合を調整していけばいいんですね。たしかに、いろんな仕事をしていると、常に新鮮な気持ちでいられるというのもあるなと感じます。医療系の記事を書いて、次は教育系の記事を書くというような毎日なので、飽きません。

無理にこれまでの仕事を減らしたり、ひとつに絞り込んだりしなくてもいいという話は、ホッとしました。ありがとうございます。とても参考になりました。


(構成・文/玄川 阿紀)

プロフィール
笹間 聖子(ささま せいこ)

大阪在住。編プロ2社を経て、2020年にフリーランスに。教育・子育て雑誌、育児メディア、ホテル業界誌、医師紹介サイトなどで執筆中。
一方で、ビジネス/ブランディング書籍のブックライティングを担当するほか、2023年からは電子書籍のディレクターにも挑戦。また、腸活のための発酵食品好きが高じて、発酵食品メーカーの会員誌の企画・編集・執筆も担当している。

note(ポートフォリオ): https://note.com/buntama/n/n036e510e7f0c
Twitter:@ seikos_buntama