「エピソードが1つ聞けたら大丈夫」という言葉が取材のお守りになりました
さとゆみビジネスライティングゼミ3期を受講された、「なおちゃん」こと岩崎尚美さん。岩崎さんは宮城県仙台市を拠点に活動するフリーライターです。地方でお仕事を獲得するコツやゼミでの思い出をさとゆみがインタビューしました。
Q1:自己紹介をお願いします。
A1:火曜コースを受講しておりました、岩崎尚美と申します。宮城県仙台市に住んでいるフリーライターです。ライター歴は大体7年目くらいだと思います。
ライターになる前は、社員が10人もいないような小さな会社で事務員をしていました。私一人で、簡単な経理や総務のようなことをしていました。その前は、コールセンター系の会社に長く勤めていました。
Q2:ゼミでは「なおちゃんの声が良い」という話で盛り上がっていましたね(笑)。コールセンターの仕事を長年続けていたなおちゃんが、どうしてライターになったんですか?
A2:私は大学を中退していて、中退後はアルバイトや契約社員という雇用形態でお仕事をしていました。あるときふと、「夢中になって、もっと頑張りたいと思えるような仕事をしてみたい」と思うことがあったんです。どんな仕事にもやりがいがあるし、それまでの仕事にももちろんやりがいを感じていました。でも、心から好きだと言える仕事をしてみたいなと。
それで、どんな仕事がいいのか考えていたときに、小さい頃から文章を書くことが好きだったと思い出しました。当時、Twitterで交流のあったママ友さんがたまたまライターのお仕事をしていたこともあって、「文章を書く仕事があるんだ。私もやってみたいな」と思うようになりました。それが最初にライターを目指したきっかけです。
Q3:お仕事をもらうまでは、どんなふうに活動していたんですか?
A3:ライターを目指したものの、一回は諦めてしまったんです。もう一度挑戦してみようと思ったのは、それから何年か経ったあと。でも、まだ子どもも小さかったし、出版社や編集プロダクションに就職するのはちょっと難しそうだなと感じました。なので、フリーランスでライターの仕事をするためにはどうしたらいいのだろうと、インターネットで情報収集するところからスタートしたんです。
7年前は、ちょうどブログが流行っていた時期。私もブログやSNSのアカウントを作って、発信をしていました。インターネットでは、「お仕事をいただくためには、発信力を強化して編集者さんに見つけてもらうことが大事!」とよく言われていたんです。
ほかにも、オンラインで受けられるライティング講座を受講しました。当時はオンラインで受けられる講座が少なかったので、探すのも一苦労でした。
それから、クラウドソーシングにも登録しました。単価の低い案件ばかりでしたが、とにかくできることからチャレンジしていきました。次第に名前の入る記事が書けるようになって、少しずつ実績が溜まっていったんです。その実績を引っさげて、ライターの募集をしている会社さんに連絡を入れて、少しずつお仕事を増やしていきました。
Q4:様々な手を打っていてすごいです。なおちゃんは、今、取材のお仕事も多いよね。7年前はオンライン取材が一般的ではなかったと思うのだけれど、仙台で取材のお仕事をどう獲得していったんですか?
A4:私は、最初から取材のできるライターを目指していたんです。でも、クラウドソーシングの案件には、初心者でもできるような取材のお仕事があまりありませんでした。
ライターの仕事を始めて一年くらい経った頃、地域の経済誌でライターを募集しているのを見つけたんです。私が普段読まないような難しいジャンルの雑誌だったので、採用されないだろうなと思いましたが、ダメ元で連絡してみました。そうしたら、たまたま採用していただけたんです。その雑誌の編集者さんに、取材について手取り足取り教えていただきました。赤字もがっつり入れてくださったので、打ちひしがれることもありましたが、とても勉強になったと思います。
Q5:活動拠点が1ヶ所できたような感じだったんですね。
今のなおちゃんの話を聞いて、すごく理想的だなと思いました。ライターの仕事を始めて間もない頃に、仕事をしっかり教えてくれる人と出会えるのはとても良いことです。自分一人でわからないまま仕事をするより、編集者さんの指導があったほうが上達のスピードが速いと思う。
そこから、お仕事がどんどん広がっていったんですか?
A5:ちょっとずつ広がっていったと思います。私は自分のWebサイトがあるので、そこからお仕事のご連絡をいただくことも多々ありました。たとえば、東京の会社さんが仙台で取材があった場合に、現地で取材に行けるライターさんはいないかインターネットで探すことがあるようなんです。県外の会社さんが、私のWebサイトやSNSを見つけてお仕事を依頼してくださるケースがたくさんありました。
Q6:地方在住のライターさんは、なおちゃんの仕事の取り方が参考になると思います。なおちゃんはTwitterでも「仙台のライター」というタグを立てているから、編集者さんも仕事を依頼しやすいのではと感じました。仙台だと、編集部が取材に足を運べない場合も多いから。地方在住のライターさんは、SNSやインターネットをうまく使って、編集者さんに見つけてもらうといいのかもしれません。
これまでのお仕事で、印象に残っている取材はありますか?
A6:取材は毎回楽しいです。記事を書くためにお話を聞いているのですが、いつも私のほうが勇気をもらっています。取材相手の方は、大きなチャレンジをしたり、何かを成し遂げた方が多いので、皆さんの話を聞くたびに「すごい考え方だな」と感動しています。
Q7:ライター歴7年でお仕事も順調だったと思うのだけど、私のゼミを受けに来てくださったのはどうしてですか?
A7:編集者さんにいろいろと教えていただいたものの、ライティングについては独学で仕事をしてきてしまったので、そもそも基礎が身についているのかどうかずっと気になっていたんです。それに、この先も長くライターとして仕事をしていきたいと思っていたので、そろそろ学び直しをしたほうがいいんじゃないのかと考えていました。
ライターになる前に一度オンラインでライティングの講座を受けましたが、それ以降はあまり学びの場に足を運んでいませんでした。というのも、まずは自分で試してみないとわからないし、何もわからない状態でたくさんの講座を受けても、私の場合はあまり身にならないような気がしていたんです。でも、今だったらある程度ライターの経験も積んできたし、講座から得られることがたくさんあるように感じて。当時と違ってオンラインの講座も増えてきたから、改めてライティングの講座を探してみることにしました。
さとゆみさんのことは以前から知っていました。講座を開講していることも耳にしていましたが、なかなかタイミングが合わなくて。今回、たまたま募集をしているのを見かけて、「さとゆみさんならいいな」とふんわり思ったんです。せっかく講座を受けるなら、「この人から学びたい!」と思える方が講師をしている講座がいいなと考えていました。「私は絶対に受かる!」という謎の自信とともに、今回申し込みしたんです(笑)。
Q8:私のことは、何をきっかけに知ってくれたんですか?
A8:たぶん、最初にさとゆみさんを知ったのは、さとゆみさんが何かの本に載せるために、一般の方のコメントを募集しているときだったと思います。私、そのコメントをさとゆみさんに送ったんですよ。
Q9:送ってくれたんだ! ありがとうございます!
A9:そのあとも、Webメディアの記事などでさとゆみさんのお名前はちょこちょこ見かけていました。インタビュー記事を読んだりして、「この人の考え方、好きだな」と思っていたんです。
Q10:ありがとうございます。
実際に講座を受けて、どんなふうに感じましたか?
「さとゆみ、思っていた人と違ったな」など、イメージが変わったりしましたか? 私、よく「思っていたよりも明るい」と言われるのだけど(笑)。
A10:イメージが変わった、ということはなかったです。「思っていたよりも明るい」とも思いませんでした。いい意味で「思っていた通り」だったなと思います。
でも、インタビュー記事などの文章を通して接していたさとゆみさんは、少しふんわりとした印象があったんです。だけど、実際に講座でお話を聞いてみると、ストイックというか、強さを感じました。仕事や文章に対する考え方は、とてもガッツのある方だなと思いました。
Q11:3ヶ月間、ゼミを受けてみてどうでしたか?
A11:途中まではすごくしんどかったです。ゼミが始まってすぐに書いた「推し原稿」の課題のあたりから、「これは大変だぞ」と感じていました。私は、インタビューで聞いた話をまとめるのは苦ではありませんが、自分の中から何かを引き出すのがすごく苦手なんです。「私には何もない」と思ってしまうようなところがあって……。何もないのなら、せめて平均点が取れるくらいの卒のない原稿を書かなくちゃと、気負ってしまいました。でも、うまい原稿が書けているかどうかわからなかったし、どんどん良くないループに入ってしまったんです。
けれど、ゼミの後半、「なおちゃん、大丈夫?」と同期の方が声をかけてくれました。その方と話しているうちに、気持ちが楽になっていったんです。卒なく上手な原稿を書かなきゃと思っていたけれど、ゼミは挑戦する場所だし失敗してもいい。むしろ、そんな考え方が必要なのかもしれないと気づくことができました。それからは、楽しく受講できるようになったかなと思います。
Q12:実は、最初の頃、なおちゃんのことを一番心配していました。どこかしんどそうだなと、私にも伝わってきていたんです。「大丈夫かな、いつか楽しくなるときがきたらいいんだけど」と気にかけながら見ていました。でも、あるところから、なおちゃんがちょっと吹っ切れたように感じたときがあった。そうか、仲間がフォローしてくれていたのか。よかったです。
先ほど「学び直し」のためにゼミを受けたと話してくれたけど、「学び直せた」と感じたことはありましたか?
A12:基本的なことでは、「一文を短くする」ことです。さとゆみさんは、一文の長さを50文字以下で設定されていたかなと思います。私も普段から一文を短くするように意識して書いていましたが、もう少し長めでも許容していました。だから、50文字以下はだいぶ短いなと思って。でも、「短いほうがわかりやすいよね」と自分でも再認識して、50文字くらいの短さで書こうとさらに気をつけるようになりました。
それから、誰かを傷つける表現がないか「小骨を抜く」ことも、一層気をつけるようになりました。これまでも、誰が読んでも嫌な気持ちにならないような文章を書くことを常に意識していました。でも、その行動に「小骨を抜く」という名称がついたことによって、より意識が向くようになったなと感じています。
Q13:一文の長さは「許可制」なんです。一文が長くなっても日本語がねじれない人なら、70文字書いても、極端に言えば200文字書いてもいいと思います。でも、書き慣れていない人や、文章が読みにくいと言われてしまう人は、短く切ったほうがいい。その目安が50文字。40文字だと短い。でも、60文字だとねじれる。私は50文字を意識して書いていくといいかなと考えています。
読みやすい、わかりやすい文章を書くと言われている人だったら、長い文章を混ぜていってもいいと思う。私も、一文が長い文章を原稿に入れてメリハリをつけることがあります。わかりやすい文章を書けるようになった人が、次のステップとして「原稿に長い文章を挟んでメリハリをつける」ことをしていけばいいのかなと思っています。
ただ、スマートフォンで読むことが多いWebの原稿は、一文が短いほうが圧倒的に読みやすい。一文を短くすることは全然悪くないと思います。
ほかに、ゼミで気づいたことはありますか?
A13:勉強になったことはいくつもあります。特に聞けてよかったのは、「2000字程度の原稿なら、取材で良いエピソードが1つか2つ聞けていれば十分」というお話です。
私は同時にいろんなことができなくて、「取材中に話を聞きながらメモを取って、次の質問を考える」ことがすごく苦手なんです。話に集中しようとしているのですが、頭の中が「あれもこれも聞かなきゃ!」と忙しくなってしまうと、ちゃんと集中できなくって。それに、「この話を掘ったら面白そう」という部分があっても、いろんなことを聞こうとするあまり深掘りができないこともありました。
でも、さとゆみさんから「エピソードが1つあれば大丈夫」と聞いてからは、取材の場の雰囲気を大事にできるようになりました。「エピソードが1つあれば大丈夫」とおまじないのように唱えながら、落ち着いた気持ちでインタビューできるようになったのは、すごくよかったなと思います。
Q14:それはよかったです。
私は取材中ほとんどメモを取りません。話を聞いている間に深掘りしたいなという質問が浮かんだら、その質問だけササッとメモするようにしています。質問を覚えておこうとすると、すごく脳のメモリを使うんです。質問をメモに出しておけば、また話に集中できるようになります。
バックアップとして、スマートフォンとボイスレコーダーの2つで録音しています。メモを取らない場合、全く音声が取れていないとアウトなので。編集者さんが一緒に来てくださるときは、編集者さんにも録音してもらっています。相手のお話は、頑張ってメモを取らなくても文明の利器がなんとかしれくれる。そうすると、やることを一つ手放せるから、取材に集中できるメモリが増えるんです。
それに、メモしたところで、書くときにもう一回テープ起こしをしなければいけないから。取材したその日に原稿を納品しなければならないなら話は別だけど、締切が一週間後くらいなら、メモすることは手放していいと思う。「狩り」に集中するというか、現場でしか聞けない話に集中したほうがいい。
それから、パソコンでメモをする人もいるけれど、すごく損しているなと思います。相手の表情や声のトーンが変わった瞬間を見逃してしまう。キーボードを打っていたらおそらく気づかないと思います。半分以上、大事な情報を落としているんじゃないかな。記者会見で、終わった瞬間にニュースを出さなければいけないならパソコンでメモを取ったほうが早いかもしれないけれど、通常の取材ならパソコンでメモを取る必要はないと思います。
A14:私も、取材中にパソコンでメモを取ることはしません。パソコンでメモを取ることを嫌がる取材相手の方もいらっしゃると思うんです。もちろん、嫌がらない人もいるし、中には「パソコンでメモを取ったほうが早いのに」と思う人もいると思います。でも、嫌がる人がいるというリスクを考えたら、やらないほうがいいなと。
Q15:私も「絶対にパソコンでメモを取らない」と心に決めたきっかけは、「嫌がる人がいる」という話を聞いたことでした。取材で、あるライターさんがパソコンを取り出して入力し始めた途端、取材相手の作家さんが「こんな取材受けられるか!」と激怒されて出て行ってしまったそうなんです。作家さんはそれっきり戻ってこなくて、取材自体がなくなってしまった、というような話を聞きました。それ以来、できるだけ危険の少ない行動を取ったほうがいいなと思うようになったんです。
IT企業の社長さんのような方の取材だと、相手もパソコンを開いていたりするから、そういうときはこちらもパソコンを出してもいいかなと思うけれど。
ほかに、ゼミで印象に残ったことはありますか?
A15:すごく印象に残ったのは、「シーンが浮かぶように原稿を書く」というお話です。映像が浮かぶように書くことをこれまであまり意識したことがなかったので、とても面白いなと感じました。課題でも、「エピソードから書き始めてください」という原稿がありました。私はあまりうまく書けませんでしたが、皆さんの原稿を読んでとても引き込まれて、「これはすごい手法だな」と感じたんです。
先日、さとゆみさんと山崎拓巳さんのインスタライブで、「情景が浮かぶ文章の書き方」のようなお話があったと思います。さとゆみさんが「テレビ業界出身だから、再現VTRが撮れるような書き方をしている」というようなことをおっしゃっていて、わかりやすいなと感じました。私も実践してみようと思っています。
Q16:インスタライブ、見てくださってありがとうございます。
私が「シーンを書く」ことを意識した最初のきっかけは、「有名な美容師さんの学生時代からアシスタント時代までをマンガにする」というお仕事を受けていたときです。私はインタビューをして、マンガはプロのマンガ家さんに描いていただいていました。ちなみに、その方は現在『CORECOLOR』で「絵で食べていきたい」という連載をしている白ふくろう舎さんです。
彼女と二人で取材に行くと、私がもう十分聞けたなと思ったあと、彼女が必ず「ちょっといいですか?」と追加で質問をしていたんです。「初めて勤めた美容院の椅子は何色でしたか?」「そのお店は何階にありましたか? 地下でしたか?」「鏡はどんな形でしたか?」などと、すごく細かくいろんなことを聞いていました。椅子の色まで文章に書くことなんて滅多にないから、私はそこまで気にしたことがなかったんです。でも、マンガに描く人は色やディテールがとても重要なんだなと気づきました。ライターの見ている解像度と、マンガ家さんの解像度の違いにすごく驚いんたんです。
それから少し時間があいて、『BUSINESS INSIDER』さんで「ミライノツクリテ」という連載のロングインタビューをさせていただくことになりました。その編集者さんに「取材相手の方に気持ちを聞かないでください。いつ、どこで、何人くらい集まっていたのかというような、シーンがわかるような質問をしてください」と言われたんです。原稿が書き終わったあとに、「シーンがないから、追加で取材をしましょう」と言われることもありました。私は「ミライノツクリテ」の取材で、シーンの書き方を覚えたんです。編集者さんが「それは朝でしたか、夜でしたか? 土曜日でしたか、日曜日でしたか? 休みの日に呼び出されてどんな雰囲気でしたか? テーブルはありましたか? どれくらいの距離感でしたか?」と、すごく細かく聞いていました。それを聞いて、私も原稿でシーンが書けるようになったんです。
「ミライノツクリテ」で書くようになってから、原稿には必ずシーンを書かなくてはいけないと意識するようになりました。だから、取材では必ずシーンを聞くようにしています。つい先日も、あるライターさんの取材に同行したときに、ライターさんが「どんな気持ちでしたか?」と質問したんです。取材相手の方は「雷に打たれたような気持ちでした」とおっしゃったのだけど、文字通りにそれを書いてもシーンは浮かびません。「それはご自宅でしたか? 外を歩いているときでしたか?」というような具体的なことを聞いて、初めてシーンが書ける。映像が浮かび上がってくるような文章は、そうやって書くんです。
A16:ゼミで、さとゆみさんが「シーンを聞くと、取材相手の方がその場面を思い出して、より深い気持ちを話してくれる」とおっしゃっていたのも印象的でした。
さとゆみさんから「シーンを書く」という話を聞いたとき、「そもそもシーンって書く必要があるのかな?」と少し考えていたこともあったんです。でも、シーンを意識しながら世の中に出ている記事を読んでみると、たしかにシーンがたくさん書かれているなと気づきました。
Q17:シーンは結構書かれているんですよ。
たとえば、野口英世やキュリー夫人、ヘレン・ケラーなどの偉人伝には、必ず印象的なシーンが描かれています。ヘレン・ケラーなら、水に手が触れたときに、サリバン先生が「water」と手のひらに書いて教えてくれる有名なシーンがあります。その話を聞いて、私たちは、視力と聴力を失った人はこんなふうに言葉を手に入れていくのかと学ぶわけです。多くの人がシーンとセットで偉人のことを覚えているんですよね。
シーンはいろんなところに書かれているんだけれど、意識して読まないと気づかないかもしれません。
A17:私もインタビューでシーンを聞いてみようと思って、質問してみたんです。でも、取材相手の方によっては「なんでそんなこと聞くの?」という顔をされてしまって……。
Q18:「なんでそんなこと聞くの?」とはよく聞かれます。そういう場合、私は「あなたが体験したことを読者の方に追体験してもらいたくて質問しています」と説明しています。
私の周りには、著者さんなどインタビューされる側の方がすごく多いんです。シーンを聞かれた方は、「この前取材を受けたとき、『時間とか場所とか、ちょっと変なことを聞くライターさんだな』と首をかしげていたんだけど、上がってきた原稿がすごく良くてびっくりした」というようなことをよくおっしゃっています。「読んでいて、その当時の場面にトリップしたようだった」と話していました。
やっぱり、プロのライターさんはちゃんとシーンを聞いて、それを原稿に書いているんです。特に長い原稿は、シーンがないと読者に離脱されてしまうから、絶対にシーンが必要。私もシーンを書けるようになってから、「上手くなりましたね」といろんな方に言ってもらえるようになりました。だから、なおちゃんもぜひ挑戦してみてほしいです。取材中にシーンを聞くと、解像度が一段上がると思います。書いている原稿にちょっと色がついたり、匂いや風を感じるようになったりするから。
ほかに、なおちゃんが話しておきたいことはありますか?
A18:いくつかお聞きしたいことがあって、まず一つ質問させてください。
さとゆみさんが、取材相手の方に気持ち良く話してもらうために工夫していることがあれば教えていただきたいです。
以前のTwitterスペースで、さとゆみさんは「インタビュー中は基本的に身体を動かさない」とおっしゃっていました。私、それが少し意外だったんです。課題でさとゆみさんへインタビューさせていただいたときや、ゼミの間も、わりとさとゆみさんはボディランゲージが多いなと感じていて。だから、インタビュー中も身体を動かしていらっしゃるのかなと思っていました。取材相手の方に気持ち良く話していただくために、「あなたの話に興味を持っています」という姿勢を、動きで示しているのかなと勝手に考えていたんです。
私はあまり微動だにせず取材をしていたので、取材相手の方に楽しく話してもらうためには、何か動きを取り入れたほうがいいのかなと考えていました。
Q19:「インタビュー中に身体を動かさない」ことは、自分でも驚きました。『CORECOLOR』のライターさんたちが、「さとゆみさんは取材中全然身体が動かない」と話していたのを聞いて、それで自覚したんです。ゼミや講演といった、自分が話すときはボディランゲージをたくさん入れているんだけど、相手の話を聞くときは頷くくらいで、身体もあまり動かさない。メモも取らないし、あまり大きなリアクションはしていないと思います。意識して身体を動かさないようにしているわけではないのだけど、話を聞くほうに集中しているから、身体が動いていないだけなのかもしれません。
もちろん相手にもよるので、ものすごく前のめりで大きくリアクションしたほうがいいなと思うときは、するようにしています。でも、取材に慣れていない方の話を聞くときは、なるべく取材っぽく行かないように気をつけていますね。名乗るときも「ライターの佐藤です」ではなくて、「今日、お話を聞かせていただく佐藤と言います」と言ったり、現場感を出さないようにしています。大きな声で「おはようございます! 今日よろしくお願いします!」と言ったら、慣れていない人は構えてしまうような気がして。ジェスチャーを入れたり、声を張ったりしないように気をつけているかも。
だから、どちらかというと「ペーシング」を意識するようにしているかなと思います。
A19:相手の方のペースに合わせる、ということでしょうか?
Q20:そうですね。
逆に、取材に慣れている方のときは相手のペースに乗らないようにしています。経営者さんなどは話すことに慣れている方が多くて、立て板に水のようにお話しになるんです。そういう方のときは居心地が悪くなるくらい間をとって、相手の方に「このライター、この話を求めていないな」と空気で察してもらうようにしています。ニコニコしながら話を聞いているのだけれど、大きく相づちを打ったりはしない。ゆっくり間をとって、深掘りする質問を考える。ちょっと向こうのペースを乱して、何か新しいことを話してもらおうと思っています。
A20:たまに、取材でずっと話してくださる方がいらっしゃいます。話してくださるのはありがたいのですが、聞きたいことが聞けないときもあって。そういうときは、あえて居心地悪く感じてもらうようにするのも一つの手なんですね。
Q21:取材に慣れていらっしゃる方限定だけどね(笑)。「その話はいつも聞いているから、違う話が聞きたいな」という空気を出すことも、時には必要だと思います。でも、取材に慣れていない方も、ある程度間をとって、「ゆっくり考えてくださっていいんですよ」という空気を出したほうが話しやすいんじゃないかなと感じます。
以前は、話のテンポの速い経営者さんに取材をするときは、私も機関銃のようにポンポン質問を繰り出していました。でも、そうすると、こっちの脳みそがいくつあっても足りないんです。頭の回転の速い人の話を聞くだけで精一杯なのに、そのペースに合わせて質問を考えると、絶対に綻びが出てしまう。だから、取材に慣れている人にはペーシングを乱してゆっくり話してもらい、慣れていない人にはゆったりしたペーシングで話してもらうのがいいのかなと、今は思っています。
ほかに質問はありますか?
A21:もう一つ、「タグ付け」について質問させてください。ゼミでゲスト講師の方が「自分にタグを付けることで仕事が広がった」とお話しされていたのがとても印象に残りました。
私は、自分から「これが書けます!」と発信するのではなくて、編集者さんのほうから「この仕事どうですか?」と打診されてお引き受けするスタイルが多いんです。でも、今後の活動を考えると、何かタグを付けたほうがいいのかなと考えてしまって。もちろん、タグを付けることが全てではないと思うんですけど。
Q22:以前のTwitterライブでもタグの話をしたけれど、私は「なんでも書きます」のほうが良いと思っています。タグは「おまけ」なんです。普段のお仕事にプラスオンされるのがタグであって、絞るものではない。タグは絞るものではなく、増やすものだと考えています。
たとえば「このジャンルが得意です」「こんな分野にチャレンジしたいです」と宣言したほうが、編集者さんがお仕事を依頼するときに想起しやすい。そういう意味では、タグがあったほうがいいと思います。でも、「なんでも書きます」の枕詞は、全然あっていいと思う。私もなんでも書いていますよ。物流業界のビジネス書から、街中のレストランの取材記事まで幅広く書いています。私のことをヘアライターや、エッセイやコラムを書く人だと思っている人が多いかもしれないけれど、実はジャンルを問わず仕事をしているんです。
だから、なおちゃんもなんでもやればいいと思う。なおちゃんにはすでに「仙台」という強いタグがあるから、そこからまたジャンルを絞ってしまうと、絞られすぎてしまうような気がします。「これが専門です」とタグを付けて絞るよりも、「これが得意です」というタグの付け方がいいと思う。ポートフォリオに「宮城県仙台市を拠点に活動するフリー ライター」「地域のヒト・モノ・コトを丁寧に取材して、それぞれの魅力を伝えるお手伝いをしています」と書いてあるの、すごく良いと思いました。
そういえば、なおちゃんはシナリオも書いているんだよね。どんな経緯でお仕事をいただいたんですか?
A22:ゲームが好きなので、元々シナリオを書く仕事をしてみたかったんです。何回かシナリオを募集している会社さんにシナリオを送ってみたものの、なかなか仕事に結びつきませんでした。でも、ずっと「シナリオを書きたい」と言い続けていたら、コロナ禍に入ったくらいのときに、知り合いの方が「シナリオの公募が出ていましたよ」と教えてくださったんです。その少し前にシナリオ講座を受講していたので、久しぶりに応募してみました。講座での学びが活きたのか、採用してもらえることになって、それをきっかけにシナリオのお仕事がちょこちょこと広がっていきました。
Q23:シナリオは、ライターの使う筋肉とはまた違う筋肉を使っているなと感じます。なおちゃんはシナリオも書けるし、いろんなことが書けて強みがたくさんあるなと思いました。
A23:でも、何かに絞ったほうがいいのかなと思うことも時々あって。
Q24:どのお仕事も嫌ではないんですよね?
A24:はい、嫌ではありません。楽しくお仕事させていただいています。
Q25:そうであれば、このままいろいろ続けていっていいんじゃないでしょうか。すごく飽きてきたとか、1つに絞ったほうが稼げるなというようであれば、絞ってもいいと思う。
たとえば、シナリオがだんだん評価されて原稿料が高くなってきた、あるいは、ほかの会社のシナリオも担当するようになったというような状況になったら、軸足を少しずつ移していってもいい。でも、今まんべんなく楽しいのであれば、わざわざ絞っていく必要はないかなと思います。特に地方で書いていらっしゃるライターさんは、その地域に密着しているから、いろんな方とつながりやすい。選り好みしないほうが仕事が広がっていくと思います。
なおちゃんは、この先どんなふうになっていきたいんですか?
A25:ブックライティングにチャレンジしてみたいなと考えています。一度も携わったことがないので、どうすればいいのかまだ何もわからないのですが……。でも、自分の中にあるものを書くよりは、何か伝えたいことのある方のお手伝いをするほうが、私には向いているのかなと思っているんです。
Q26:すごく良いと思います。同期やゼミの卒業生にも、ブックライティングをしている方がたくさんいるので、ぜひ話を聞いてみてください。興味のある仕事があったら、実際にその仕事をしている人の近くに行ってみるといいですよ。
A26:はい。みなさんとお話ししてみます。
(構成・文/玄川 阿紀)
プロフィール
岩崎尚美(いわさき なおみ)
宮城県仙台市を拠点に活動するフリーライター/シナリオライター。ライターとしては、地域の経営者インタビュー、店舗取材、セミナーレポートなどを行う。またメディアでの執筆のほか、ホームページやパンフレット用の文章、プレスリリースの作成など、企業広報のサポートもしている。シナリオライターとしては、主にスマホアプリや音声作品などのプロット、シナリオを制作。ひとり旅にハマり始めた2児の母。
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