ライターを3つ目の職業に。コツコツ腕を磨いていくのはどの職業も一緒です

さとゆみビジネスライティングゼミ3期生の「シマさん」こと、島袋匠矢さん。島袋さんは大阪で美容師・水彩画家として活動されていて、3つ目の職業にライターを選んだのだそうです。ゼミでの思い出や画家になった経緯などをさとゆみがインタビューしました。


Q1:まずは自己紹介からお願いします。

A1:島袋匠矢と申します。大阪で美容室を経営していて、この4月で10年目を迎えました。今も現役でバリバリお客様の髪をカットしています。美容師歴は24年です。

それから、画家として絵を描くこともしています。

Q2:シマさんと私の出会いは10年以上前にさかのぼります。

私のお腹に子どもがいたときでした。大阪で美容師さん向けのセミナーがあって、お互い講師として呼ばれていたんですよね。シマさんは、「お客様のカウンセリングのときに、カット後のスタイルを絵に描いて見せてあげると、すごく喜ばれますよ」というセミナーをしていたんですよね。

そもそも、どうして絵を描き始めたんでしたっけ?

A2: 当時の美容師は、ヘアカタログを見せて「こんな髪型どうですか?」と提案することが多かったんです。でも、建築家さんやファッションデザイナーさんは、他の人の作品を見せて「こんな感じでどうですか?」とは言いません。他の美容師さんが作ったヘアスタイルを見せて提案するのって、おかしいんじゃないのかなと、ふと思ったんです。それで、自分のラフ案を見せるために絵を描くようになりました。

小さい頃から絵を描くことは好きでしたが、美術の成績は5段階中4くらいで、めちゃくちゃ上手いわけでもなかったんです。お客様に絵を描くために、まずデッサンを習いました。教えてもらった描き方だと、最低でも10分くらいかかってしまって。だけど、カウンセリング中に、お客さんの前で黙々と10分絵を描くわけにはいかないですよね(笑)。なので、1分くらいで描けるようになろうと練習し続けました。そうやって編み出したノウハウをセミナーで教えていたんです。

今も、新規のお客さんやスタイルチェンジをするお客さんがいらっしゃったときは、絵を描いてお見せしています。

Q3:私、絵がコンプレックスなんです。壊滅的に絵が描けなくて、雑誌時代には、コンテを描くたび、みんなにぎょっとされていたくらいです。

その話をしたら、「僕のセミナーを受けていきませんか?」と誘っていただいたんですよね。

A3:セミナーの控え室でさとゆみさんにお会いしたとき、「こんなチャンス二度とないぞ! 行け行け!」と名刺を持って突撃したんですよね(笑)。

Q4:あのときはびっくりしました(笑)。

実際に受けてみてすごく勉強になったけれど、毎日続けないと絶対モノにならないなと思いました。たしかにコンテを描く機会はあったけど、私にはそこまで絵を描く必要性を感じられなくて、毎日練習することができなかった。でも、続けられた人はきっと習得できただろうし、お客様に対して役に立つものを手に入れられたんだろうなと思いました。

そのセミナーから、シマさんとは10年くらい会っていませんでした。でも、SNSを通してシマさんが絵を描き続けていることはずっと知っていて、

数年前、シマさんが大阪で初めて個展を開催すると聞いたから、お邪魔したんです。シマさん、私を見てすごくびっくりしていて(笑)。

A4:さとゆみさんの活躍をずっと見ていたので、個展にいらっしゃったときはめちゃくちゃびっくりしました。僕が絵を描いているのを知っていてくれて、すごくうれしかったです。

Q5:シマさんの個展を見て、「継続ってすごいことだな」と思いました。

カウンセリングでお客様の髪型を描いてあげる理由は理解できたのだけど、画家を目指すようになったのは、どう発想が転がってそうなったのでしょう?

お客様に対して絵を描き始めたけれど、そこから画家になるのはまた別の話のような気がします。

A5:お客様にもいろんなタイプの方がいらっしゃるので、「髪型だけではなく、ファッションまで描けたほうがいいな」と思うようになったんです。そして、上手くなるにはどうしたらいいのか考えながら、次々と絵を描いていきました。

「これ、作品にならへんのかな」と考えるようになったのは、全身像が描けるようになってから。カウンセリングのためではなく、自由に表現したものを少しずつ描くようになりました。

だんだん絵が溜まっていくと、「これ、販売できひんのかな」と思うようになったんです。絵を販売して、誰かの家に飾ってもらえたらすごく面白そうだなと。美容師の場合、お客様の髪をカットしても、それが永遠に残り続けることはありません。髪は1ヶ月後、2ヶ月後には形が変わってしまうけれど、絵だったら変わらずに残り続ける。そこに魅力を感じたんです。

「“絵を売る”ってどうやったらできるのかな」と考えていたとき、美容室に新規のお客様がいらっしゃいました。その方は、カウンセリングシートの職業欄に「画家」と書いていたんです。「こんなチャンス二度とないぞ!」と、かつてさとゆみさんに突撃したように、突撃することにしました。カウンセリングが終わって、シャンプー台に案内する前に、「僕、絵を100万円で売りたいんです。どうやったら売れるのか教えてもらえませんか?」と聞いてみたんです。もう、すっごい笑われました。そりゃそうですよ。初めて行った美容室で、美容師から「絵を売りたい」なんて言われるとは思わないですよね(笑)。

そのお客様は、美容室の前に飾っていた僕の描いた絵を見て、「なんで絵を出しているんだろう」と不思議に思って来てくださったそうなんです。あとあと知りましたが、そのお客様は百貨店で個展を開催したり、まさに100万円で絵を売っているような画家さんでした。その方は、「ギャラリーさんで公募展をやっているから、まずはそこに出てみたほうがいいよ。出展者の中で順位が決まって、上位に入ると、ギャラリーさんから『個展をやらない?』と声をかけてもらえるようになる。多くの画家さんは、そうやって引っ張り上げてもらっているんだよ」と丁寧に教えてくださいました。それを聞いて、その日のうちに3ヶ月後に開催される公募展に電話で申し込みしたんです。

3年くらい、年1回のペースで公募展に絵を出し続けていたのですが、泣かず飛ばずだったんです。「今年こそ賞を取るぞ!」と意気込んで臨んだ年も全然ダメでした。なので、グランプリを取った人に、僕の絵を見せて「どうしたらいいですか?」と突撃してみたんです。その方から、「絵にもうちょっと物語があってもいいんじゃない?」とアドバイスをいただいて、改めて絵の方向性を考えました。「どんな絵を描きたいんだろう、なんで絵を描いているんだろう……」という原点から思考を始めて、だんだんと自分の中にストーリーができあがっていったんです。その物語が森やお花になっていきました。

Q6:3年落ち続けても、公募展に挑戦しているところがシマさんらしいなと思いました。さらっと言ったけれど、3年挑戦し続けているのは本当にすごい。

美容師をやりながら毎日絵を描いているんですか?

A6:毎朝1時間~1時間半くらいかけて絵を描いています。もう、やりたいことしかやらないと決めているんです。美容師も、画家も、ライターも、やりたいことなので努力という類いのものではありません。

Q7:今、シマさんはそれを「努力とは言わない」と話したけれど、それって美容師という職業をやっている人ならではの言葉だなと感じます。

美容師さんは、一つの物事を習得するのにどれくらいかかるのか、肌感でわかっているのだと思います。カットやカラーは絶対に1日では上手くなりませんよね。

A7:アシスタントとしてシャンプーから始まって、練習を積み重ねてカットやカラーができるようになって、ようやくスタイリストデビューして……という状況で、何か一つの技術を習得する力を培ってきたのかなって。できないことができるようになっていく過程を面白いと感じているんですよね。

Q8:続ければ結果がついてくるとわかっている人たちなんだろうなと思います。

それから、美容師さんは師匠を見つけるのが上手いなと思います。師匠じゃなくてもいいんだけど、人に聞くのが上手い。人に聞くことを恥ずかしいと思う人が少ないなと感じています。美容師さんは、他の美容院のレッスンでもどんどん参加する。学びに行くことに対して抵抗がないのかなと思います。

A8:そう思います。学びに行くことへの抵抗感は全くありません。

Q9:美容師さんたちは、「学んで上手くなる」ことを日常的に繰り返せる人たちなんだろうなと感じています。

シマさんは、ライティングも0からのスタートだったのではないでしょうか。ゼミの間は、毎日noteを書いていて、ぐいぐい上手くなっていったなと思います。「課題とは別に何かをやろう、やらなきゃいけないんだな」と考えるところが、美容師さんっぽい、つまり、すごくシマさんっぽかったです。

A9:自分の中で、「新しいことは、8年やってようやく芽が出る」という統計が取れているんです。コツコツやるしかないというのは、自分でもよくわかっています。

Q10:ところで、シマさんはどうして書くことを勉強してみようと思ったんでしょう?

A10:藤原和博さんの本『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』に、「キャリアを3つ持つといい」というようなことが書いてあったんです。美容師と画家、あともう一つ自分は何をしたいのか、5年くらいずっと考えていました。

そんなときに、さとゆみさんの『書く仕事がしたい』を読んだんです。書く仕事がしたいから読んだのではなく、さとゆみさんの本だから読んだという感じです。でも、本を読み進めていくうちに、ライターの仕事に興味が出てきました。元々知らないことを知りたいという欲求が強くて、ライターは知らないことを知れる職業なのかなと思ったら、やってみたいという気持ちが沸々と湧いてきました。

でも、一年くらいはどうするか考えたかな。昨年の11月頃、「やっぱり、これやりたいぞ!」と思いついて、ゼミに申し込みしたという経緯です。

Q11:ゼミを受けて、どんなことに気づきましたか? シマさんは、毎回いろんなことに驚いていた印象があります。

A11:驚いていました。美容師も画家もライターも、一緒なんだなと毎回思っていたんです。「続けないと上手くならない」こともそうだし、「何か伝えたいことがあるなら、上手くならないと伝えられない」ということも一緒でした。

美容師も「お客様を綺麗にしてあげたい」という気持ちがスタートにあります。でも、技術がないとそれができないから上手くなりたいと思うんです。僕は「できないと自覚し、上手くなりたいと思う」という順番が、成長するための良いステップだと考えています。ただスキルだけを追い求めてしまうと、お客様に支持されなくなってしまうと思っているんです。

さとゆみさんへのインタビュー課題のとき、あまりにも上手くできなくて落ち込んでしまいました。でも、さとゆみさんがどんな思いで『CORECOLOR』を立ち上げたのかを聞いて、「伝えたいな」と強く思ったんです。伝えたい気持ちがスタート地点にあって、上手く伝えるためにスキルを身につけようという思いが芽生えるこの順番は、これまでやってきたことと一緒だなと思いました。

Q12:それはとても大事なことです。私は、伝えたいことがないなら、書かないほうがいいと思っているくらいです。

A12:本当にそう思います。ゼミの間、noteに40本ほど推し原稿を書きましたが、日に日に内容が薄くなっていきました。

Q13:それは、シマさんが実際に40日書いて気づいたことだから、すごく意味があると思います。

熱量を持てないまま書いても、ただの練習でしかない。本番では使えない技術なんです。以前、このTwitterスペースのインタビューで「毎日noteを書くこと」について話したことがありました。一つ一つがちゃんと本番になっていないと、あまり書く練習にはなっていないと思うんです。本当に推したい、推さなきゃいけないという状況で書く一本と、ただ漫然と書いている1本だったら、ちゃんと推したくて書いている1本のほうが絶対に力がつきます。

シマさんのように一度も書いたことがなくて、書く筋力を持っていない人が80日書き続けることは、書く筋力をつけるためにはいいと思う。ウィッグを切って練習することだって何百回と必要だから。でも、シマさんは、これから先、「この原稿を買ってもらえるか」と考えながら書くといいと思います。ウィッグではなく、お客様をカットすることを考えたほうがいい。

絵でいうと、お客様のヘアスタイルを描くために、1分で描けるように練習していた時期があったんですよね? それが、今でいうところのnoteを書き続けた80日間にあたる。だから、この先は、1分で描いた絵で、本当にお客様が納得してくれるか、喜んでくれるか、実際にカウンセリングで使っていくことを、書くことでもやっていかなきゃいけないと思います。練習から、本番を考えた実践にチェンジしていったほうがいい。

A13:それも美容師と一緒だと思いました。「スタイリストデビューなんて無理です」と怖じ気づいてしまうアシスタントもいます。でも、本番を踏まないと、絶対に向上していかないんですよね。

Q14:お医者さんだって、ずっと教科書を読んでいても手術できません。必ずいつかは人の身体で実践しなくてはいけない。原稿もそうなんです。実際にお金をもらわなくてもいいんだけど、「お金をもらえる原稿かどうか」という視点で書く段階も必要だと思います。今まではウィッグを切っていたから、誰も怪我させないし、誰も「こんなに切られると思わなかった」と泣かない。でも、ここから先は、さらに集中して、原稿料がもらえるレベルの文章を書くという気持ちが大事になると思います。

今まで、シマさんはゼミの課題と毎日noteをやっていたから、バランスがよかった。課題は必ず評価をされるから、お客様の髪を切っている状況と同じです。だから、そういう場所を作れるといいんじゃないかなと思いました。noteでもいいけど、読者を想定して書く場所を作れるといいんじゃないかな。

A14:『CORECOLOR』でさせていただきたいです。頑張ります。

Q15:ぜひ頑張ってください。『CORECOLOR』は本当にシビアに原稿を見ていますので。

『CORECOLOR』は、書ける場所でもあるし、他の人の原稿を読める場所でもある。みんなが上手くなっていく過程が見えるので、シマさんにとってもいい場所になるんじゃないのかなと思っています。

文章を書いてみて、どんなところが難しかったですか?

A15:セミナーレポート課題やインタビュー課題で、書くことを整理整頓していくのが難しかったです。順序立てて並べて、整理して一つのストーリーを作ることが、すごく大変でした。

「だるま落とし」ができなくて、あれもこれも伝えたいと思ってしまうんです。お料理やったら、お肉、お魚、お米、パスタ、海鮮、と様々なメニューがある中で、誰にどんな料理を作ればいいのかちゃんと考えられるのに、文章になると、なぜか全部盛り合わせたどんぶりを差し出してしまいます(笑)。

Q16:めっちゃカロリー高そう(笑)。構成が難しかったということだよね。シマさんは、ひょっとしたら、物理的に付箋を使って原稿を書くといいかもしれません。

A16:さとゆみさんへのインタビュー課題のときは、全部文字起こしをして、紙に印刷しました。同じパートを切って貼り合わせて、そこから付箋に要素を書いていく方法を試してみたんです。セミナーレポート課題ではやらなかったので、こっちのほうが書きやすいなと感じました。

Q17:アナログで手を動かしていくやり方がシマさんには合っているのかもしれないですね。

私も書籍ライターになった頃は切り貼りをしていました。書籍だと、20万~30万文字のテープ起こしがあります。初めて本を書く著者さんの場合は資料もたくさんあるので、全てを積み上げると、私の身長よりちょっと低いくらいの紙の枚数になります。それを全部、ちょきちょき切って、話の内容が同じものをグループ分けして、A4のルーズリーフに貼っていました。そのルーズリーフを入れ替えしながら、構成を立てていたんです。

年に10冊以上書くようになると、切り貼りしたものがなくなったり、出張先に紙の束を持っていくのが大変だなと思って、最近はオンライン上で構成を作れるようにしています。

切り貼りからオンラインに変わるまでの間に、実はもう一段階あって、郵便物に貼る宛名ラベルを使って構成を作っていました。たとえば、テープ起こしを印刷した紙が300ページあったとしたら、1ページ目に書かれている内容を簡単に要約してExcelに打ち込むんです。「起業するときに苦労したこと①資金繰り」「起業するときに苦労したこと②集客」と、頭からダーッとExcelに書いていきます。そのExcelを宛名ラベルに刷って、同じ要素ごとに分けてA4のルーズリーフに貼っていくんです。すると、切り貼りよりだいぶコンパクトになる。何ページに何が書いてあるかは宛名ラベルを見ればわかるから、宛名ラベルを確認してテープ起こしに戻り、原稿を書いていく……という仕組みを作っていました。

鈴木三枝子さんのことを書いた『道を継ぐ』は200人弱にインタビューしているので、60万~70万文字の信じられない量のテープ起こしがありました。でも、宛名ラベルで整理していく方法で、6万文字くらいの文章に構成し直しています。

まずは、200人分のインタビューの内容を、一人あたり3箇所くらい、ロングインタビューした人は10箇所くらいに要約して、宛名ラベルに刷っていました。「接客について教わったこと」「技術について学んだこと」などとグループ分けしていくと、30人分くらいのエピソードがずらっと並びます。30個のエピソードから、「接客についてはこの人の話、技術についてはこの人の話を使おう」と選んで書いていきました。当時の宛名ラベルは、まだ家に残っていると思います。

構成は、わりとフィジカルな作業です。頭の中で構成を考えるよりも、印刷して整理することで「この話とこの話、取材のときは似ていないと思っていたけど、同じグループにいるな」とよりわかりやすくなる。
シマさんは、物理的に手を動かすやり方が合っているかもと感じました。

A17:手を動かして構成する方法は、とても面白かったです。向いていると思いました。エッセイやコラムの時も同じ方法ですか?

Q18:エッセイやコラムを書くために思考の整理をするときは、私も手で書くことが多いです。2000~3000字くらいならわざわざ構成案を作らないけど、もう少し長い原稿だったら、どの順番で並べようかなと手を使って書き出しています。

A18:「今日はこんなことがあって、こんな発見があった」と、手書きで全部メモしているんですか?

Q19:そういうときは、iPhoneのメモ帳を使っています。でも、1ヶ月後ぐらいに読み返すと、半分ぐらい何のことかわかりません。「何の話だっけ?」と思うことは、こぼれていっていいのだと思います。

ほかには、noteの下書きに80本くらいタイトルだけメモしています。もう少し考えたら書こうと思っている「思考のリスト」が80本くらいあるんです。タイトルだけしっかり考えて、書き残しておく。1、2行箇条書きで簡単にメモしているときもあるかな。「思考のリスト」を日々転がして、関連するエピソードが3つくらい集まったら、書き始めるという感じです。

A19:めっちゃくちゃ面白い。脳みそに引っかかるワードを並べておいて、体験したことをあとから紐付けていくのか。面白い。

Q20:最近は、チャットGPTについてばかり考えています。

先日、坂本龍一さんが亡くなって、「坂本さんの曲にはこんな思い出があります」「今日はみんなで坂本さんの曲を聴こう」など、たくさんの追悼記事が世の中に出ました。でも、チャットGPTが作曲した場合には、それが起こらないなと思ったんです。なぜなら、チャットGPTは死ぬことができないからだよなあ、とか。

同じように、チャットGPTが作家だったとしても、生まれることと死ぬことはできない。たとえば、私たちが本を読むとき、作家さんの年齢や境遇を考えることがあると思うんです。「24歳でこの本を書いたのか。この頃に子どもが生まれたから、愛情深い文章を書いているんだな」「病気になった頃に書いた文章だから、こんなに切ない描写が書けるのかな」という読み方をすることができる。でも、チャットGPTが書いた文章では、そういう受け取り方ができない。そこに、我々人間が文章を書くヒントがあるんじゃないのかなと、チャットGPTが登場した頃からずっと考えていて、それはnoteの下書きに入っていました。

坂本さんのことがあったから、チャットGPTについて1本記事を書いてみようかなと思っているんです。記事を書くための最後のトリガーが、坂本さんだった。「坂本さんの訃報を聞いた日、みんなが坂本さんの曲を聴いて、思い出をツイートしたよね。これはチャットGPTにはできないよね」ということが、書き出しになりそうな気がする。そんなふうに考えながら、ストックのプールをかき回している感じです。

A20:人間にあることは、「生」と「死」ですもんね。つまり、「時間」ということでしょうか?

Q21:そうですね。チャットGPTには時間軸がない。だから、私たち書き手が生き残っていこうと思うのなら、そこを意識していかないといけないと思います。私は「何歳の人が書いているのか」が、チャットGPTとの差のひとつであるなと考えていて。今まで以上に、書き手のプロフィールが大事になる気がしています。みんなにプロフィールをさらした方がいいよというわけではないけれど。

A21:『書く仕事がしたい』に「視点」と「視座」の話がありました。今の話を聞いて、坂本龍一さんのことをどの視点で見て、どのテーマで書いてくのが視座なのかなと思ったのですけれど、そういう理解であってますか?

Q22:視点と視座の話でいうと、とちらでもあり得ます。「チャットGPTを坂本龍一さんの訃報から考える」という視点もあるし、「坂本龍一さんの訃報をチャットGPTから考える」という視点もある。もし、「坂本龍一さんについて原稿を書いてください」と言われたら、チャットGPTを切り口にしてもいいだろうし、「チャットGPTについて書いてください」と言われたら、坂本さんの訃報を聞いて考えたことを切り口にさせてもらってもいいと思う。

こういうことを考えるのが、先ほど言った「本番」だと思います。この先、シマさんは打席に立つことをしていったほうがいい。デッサンの練習をしていたところから、「どうやったら100万円で絵が売れるんだろう」と考えたときの努力の仕方にチェンジしていったらいいと思うな。

A22:いつもこのTwitterスペースを聞いていて、さとゆみさんの思考がどうなっているのか知りたいと思っていました。今日、その一部に触れられた気がしてうれしいです。

一つ、質問してもいいですか? ゼミで課題の赤字を読んでいるときに、自分が思考したことを読み解かれているような感覚があったんです。みんなも、「そうそう、ここでつまずいたんだよね」と思った部分に赤字が入っていたんじゃないのかなって。さとゆみさんは、なんでみんながつまずくポイントがわかるんですか? 経験を積むと、わかるようになるんでしょうか?

Q23:たしかに、「迷ったところに赤字が入っていました」という感想は何回か聞きました。みんながどこで悩んだのか、どこで時間切れになってしまったのかは、原稿の精度と比例しているから大体わかる気がします。精度が下がっているところに赤字を入れているので、みんながつまずいた部分に丁度ハマっている可能性は高いのかもしれません。

文章を描いているときに、何気なく書いている文字は一文字もないと思うんですよね。だから、「なぜ『は』を『が』に変えたのか」といった理由は全部説明できる。おそらく、プロのライターならみんなできると思います。

エモーショナルな原稿を、感情のままに泣きながら書いていたとしても、書いた文章を読み返して確認しているときは、「ここは『は』じゃなくて『が』だな」とか、プロのライターはみんなやっている。どんなに胸が詰まりながら書いていたとしても、必ず修正しながら書いているんです。もしくは、最後に修正したり、推敲しているのだと思います。

もちろん、それでもまだ思考が甘かったな、雑だったなという原稿はたくさんあって、そのたびに反省したり、消えたくなったりするんだけど。

A23:俯瞰する力が大切なんでしょうか?

Q24:内容にもよるのですが、私はあまり俯瞰して書いていないような気がします。それよりも、自分が読みながらぐっと来るかどうかを大事にしています。書いていて、泣けるほど気持ちが高まったり、笑っちゃうほど幸せになったり、そういう心の動きを大切にしているかな。

『道を継ぐ』は「4箇所泣きました」といろんな方に言われます。その4箇所って、聞くと必ず、私が泣きながら書いた4箇所なんですよね。そういう気持ちで書いたものって、読者さんにも伝わると思います。

インタビュー原稿でも同じです。『CORECOLOR』の1万字のインタビュー記事も、2箇所くらいは胸が詰まる場所があるといいなと思っています。「すごく感動した」「泣いちゃうから電車で読まなくてよかった」みたいな箇所が2つくらいないと、1万字は読ませられないと思う。だから、ライターさんと「もう少しここを掘り下げよう」という話はよくします。別に泣かせなくてもいいし、感動でも驚きでもいいんだけど、感情の数値が動くところを作らないといけないなと思っています。

私、原稿を真ん中に置いて、「こっちのほうが心が動かない?」「このエピソードを入れたいな」という話をしているのがすごく楽しいんです。ゼミが終わったあともみんなとこういう話をしたいなと思って『CORECOLOR』を作りました。実際に公開する原稿を真ん中に置くと具体的な話ができます。『CORECOLOR』のメンバーとはこういう話ばっかりしているから、すごく楽しいんです。

(※さとゆみが『CORECOLOR』を立ち上げるときに書いたnote:『死ぬことが怖くなくなった、は言い過ぎだけど』

A24:僕、『CORECOLOR』の塚田智恵美さんの連載が大好きなんです。思考が見えるところがいいなと思っていて。書くことに対してすごく思考して、「ああでもない、こうでもない」と1文字に至るまで思考している様子が伝わってくるのが、すごく楽しいんです。

(※『CORECOLOR』の塚田智恵美さんの連載:『嫌いだけど大好きです。なぜ「下げて上げる」のかについての考察【連載・欲深くてすみません。/第5回】』)

Q25:宣伝会議の講座に通ってくれたちえみとは、毎朝6時から一緒に散歩していた時期がありました。3ヶ月くらいかな。そのときに、毎日原稿について話し合っていたんです。彼女は深いところまで考えて原稿を書いているから、「その思考を『CORECOLOR』で書いてほしい」と、私からお願いしました。だから、ちえみの原稿を最初に読めるのが本当に楽しみなんです。

実は、ここ数年でスタートした私の連載の初回は、全部ちえみに原稿を読んでもらって、意見をもらって、それを参考に書き直しているんです。『ママはキミと一緒にオトナになる』の「はじめに」も何度も読んでもらって相談しました。ちえみは元々生徒さんだったんだけど、今は文章の細かい話ができる大切な仲間です。

A25:僕もその場所に行ってみたいな。体験してみたい。

Q26:どんな仕事もそうだと思うのですが、ある一定のラインからは、同業者同士じゃないとわからない面白さがあるような気がします。

A26:僕も書くことに関して、さとゆみさんたちと高次元の会話ができる場所までたどり着けるようになりたいです。

Q27:待ってるから。でも、ここからは本番。一球にめちゃめちゃ時間をかけていいので、一球入魂で書いてきてください。

A27:はい。必ず行くので待っていてください。頑張ります!


(構成・文/玄川 阿紀)

プロフィール
美容師/水彩画家/チェアリスト
島袋匠矢

美容室STITCHを経営。「短時間で描くヘアデッサン」を開発し、全国で美容師さんへセミナーを開催。画家として、Nコン90回記念号『NHK全国音楽コンクール課題曲集』(NHK出版)5冊分の表紙イラストを担当。大自然の中で折りたたみ椅子に座る「チェアリング」をし、Well-Beingな状態で「思考」するのが大好きなチェアリストでもある。