[スペシャル対談]書くことで「わたし」と「あなた」と「世界」が変わるーー寒竹泉美×さとゆみ

昨年、さとゆみの「書く仲間」であり友人でもある寒竹泉美さんと、CORECOLORのクラウドファンディングがきっかけで、「書くこと」の力について語り合う機会がありました。とくに、さとゆみゼミの卒業生だけで運営しているCORECOLORについて、たくさんの問いかけをしてもらいました。当時、たくさんの方に聞いていただいたのですが、文章にも残したいと思って、ゼミ仲間のゆっきーこと、島田幸江さんにまとめてもらいました。

ゼミ生の一言からスタートしたWebメディア「CORECOLOR」

寒竹:CORECOLORは、さとゆみさん主宰のライティングゼミ卒業生が記事を書いているメディアですよね。講座修了後にライターデビューできる場があるのは、すごくいいですね。私も小説の書き方講座を主宰していますが、講座で得た学びをどこでアウトプットしたらいいかとよく質問を受けるので。

さとゆみ:CORECOLORを作ったのは、ゼミ生の一言がきっかけだったんです。ゼミ卒業も間近になった時、「僕はこれからどこで記事を書いていけばいいでしょう」と相談されました。ライターはデビューのときが一番難しいと思うんです。実績がまだないのですから。だから、ライターデビューしていない人がデビューができ、すでに活躍しているライターさんは新しいジャンルに挑戦できる。みんなが安心して文章を書ける媒体を作りたいと思って立ちあげました。

寒竹:さとゆみさんは、ゼミで書くことを教え、教え子がライターとして書ける場所を作り、自ら編集をする。Webメディアをイチから作り、それを維持するには相当な熱量と労力が必要だと思うのですが、どうしてそれが成り立っているのでしょうか。私のnoteにも書きましたが、さとゆみさんのエネルギーの源がわからなくて。CORECOLORのサイトは、謎の生命体のように見えます。

さとゆみ:メディアを作って運営するのは、私にとっては自然な流れだったんですよね。誰よりも私が楽しんでいて、特別にがんばっているつもりはないんです。メンバーはそのことをよくわかってくれていて、私の試みに相乗りしてくれている感じです。

寒竹:当たり前? 楽しみ? どれほど大変なのかと思っていましたが……

さとゆみ:ゼミ生とは講座の間に、文章を間にして関係を深めた仲です。講義が終わったからと言って疎遠になるのはもったいないと思いました。

CORECOLORができてからは、どうしたらもっと読者に届く原稿になるのか、毎日のように、みんなと意見を交わしています。ゼミの延長というか、放課後のおしゃべりみたいに、ずっと文章の話ができて、それが楽しい。

寒竹さんと京都で会うと、食事をしながら「3行目と4行目はどうしてこの順番なの?」とか、延々、文章の話をするじゃないですか。そんな感じで誰かといつも話し合っているのが楽しんですよね。

それに、メンバーの成長を目の当たりにできるのも嬉しいです。講座終了後、CORECOLORのインタビューデビューしたメンバーが、最初の原稿では5~6稿まで修正が入ったのに、2回目の取材現場では、取材修了後にもう、原稿の核にしたいポイントがわかり合えている。しかも初稿から想像を上回る表現になっていたりするから、嬉しくて仕方がないんです。編集長としては「このライターさんを手放してなるものか」と思います。

寒竹:それはうらやましい。私もそんなバディが欲しいと思っています。

さとゆみ:バディ「ら」ですね(笑)。たくさんいて、幸せ。実は、CORECOLORを始めてから、私の原稿が上手くなったと、編集者さんたちから言われるんです。みんなの原稿をチェックして読者に伝えるにはどうしたらいいかを言語化しているので、自分の原稿でも再現できるようになったんだと思います。私が一番の役得なんですよ。

寒竹:いいことばかりで楽しそう。ちょっと嫉妬しちゃうかも(笑)

CORECOLORはその人にしか書けない文章がある場所

寒竹:もしCORECOLORで書きたいと思ったら、さとゆみライティングゼミに入らないといけないんですよね。

さとゆみ:そうですね、ライターは卒ゼミ生だけなんです。

寒竹:さとゆみゼミはいつも定員を大幅に超える人数が応募すると聞きました。何を基準に決めているんですか。(※6期生は半数を先着順にしています)

さとゆみ:参加者の多様性を意識しています。年齢と居住地域、ライターさんとそうでない職業の方のバランスを見て、できるだけバラエティのある組み合わせになるように心がけています。本当は全員に参加してほしいんですけれど、添削をする人数を考えると、それも難しくて。

寒竹:ゼミ生の中でライターさんの割合はどのくらいですか?

さとゆみ:だいたい6割くらいがライターで、4割は他の職業です。自営業の方、文章で表現したい会社員の方やオウンドメディアのディレクターをしている方などが参加しています。CORECOLORで書いているのは、本業がライターではない人の方が多いんじゃないかな。

寒竹:確かにイラストレーターや画家、会社員、美容師など、いろんな職業の人たちが書いていて個性的ですよね。その人たちが熱心にCORECOLORにコミットする理由はなんでしょう。さとゆみさんの魅力?

さとゆみ:多分、それぞれが書いて伝えたい思いがあって、書かずにいられないからだと思います。CORECOLORにあるレビュー記事はすべて、みんなが自発的に書いてくれた原稿です。「この映画を応援したい」とか「魅力的なお芝居だから知ってほしい」と企画を持ち込んでくれる。レビューは基本的にはお断りしません。

寒竹:ライターさんが持ち込んだ原稿を無条件で掲載するのは特徴的ですね。商業メディアだと、アクセス数や話題性を考えて企画を選別すると思いますが、CORECOLORにはそれがないんですね。

さとゆみ:インタビュー企画は、相手のご都合や取材のタイミング、メディアとの相性があるので選考をさせてもらっていますが、レビューは基本的に自由に書いてもらったものを、一緒にブラッシュアップしていっています。

寒竹:実は最初のころ、PV戦略を持たないメディアの記事を、読者は読んでくれるのだろうかと勝手に心配していました。

さとゆみ:すべての原稿を受け入れると言っても、自由に書いた原稿をそのまま載せているわけではありません。読者の心に届くよう、しっかり推敲してもらっています。特徴的なのは「書かずにはいられないほど心が動いたら、それを、あなただけの文章で書いてください」とお願いしている点です。

CORECOLORにあるどの文章も、すべてその人にしか書けないものです。それは自信を持って言える。うちの記事は、文章に羽があって、生き生きと跳びはねている気がするんです。書き手の言葉を整えすぎず、できるだけむき出しの状態のまま読者に届けようとしているメディアかなあと思います。

脳内スイッチをどの順番で押すか決める楽しさ

寒竹:私、文章を書くのはめんどうくさい行為だと思っていたけど、さとゆみさんのポジティブな話を聞いていたら、ちょっと心を入れ替えようと思いました。

さとゆみ:いや、書くのはめんどうですよ。しゃべるのは一瞬だけど。

寒竹:ですよね、書くのは時間がかかる。でも、時間がかかるのは、自分の感覚を研ぎ澄ましながら、思いを言葉の形に結晶化する行為だからだと思うんです。だから書くは祈りのような神聖な行為だと感じます。

さとゆみ:祈りかあ。いい言葉ですね。私は、文章は「ストロングタイ(Strong Tie)」、つまり「強い結び目」だと思っているんです。まず1文目をちゃんと書かないと2文目には行けない。2文目と3文目はつながっている必要があって、3文目と4文目は矛盾してはならない。そうやって最後まで1文ずつ丁寧に編んでいった文章は、結び目がぎゅっと詰まっていて、まるで1本の強い糸になる。そんなイメージです。

寒竹:文章を編みこんでいく話でいうと、私の講座では、「文章は書いた順にしか読まれない」とくり返し伝えています。つまり「赤い靴下を履いた男の子」と書いたら、読者の頭の中にはまず赤い靴下が出てきて、次に男の子を思い浮かべる。でも「男の子が赤い靴下を履いている」と書くと、全然、別の情景を思い浮かべる。赤い靴下の映像なのか、男の子のシーンなのか。どの映像スイッチをどの順番で押して読者の脳内に映し出すか。それを決められるのが文章だと思うんです。

さとゆみ:うん、「赤い靴下を履いていた男の子がいる」と「男の子が赤い靴下を履いていた」は立ち上がる映像の順番がまったく違いますよね。私たちライターは、どの順序で書くかを真剣に考えるじゃないですか。一方で、どっちでもいいから文章はAIに書かせればいいという意見もあると思う。でも、文章の編み方やスイッチを押す順番を考えるのが楽しいから、私たちはライターになっているんだと思うんです。

寒竹:うんうん。この楽しさに惹かれていろんな業界の人たちがライター業界に来たら、もっと世界が楽しくなると思います。

さとゆみ:私、ライターを本当にすごい仕事だと思っているんです。ひとつの記事が、誰かの人生を変えるくらいの力を持つ可能性を持っている。「あの文章のおかげで誰かと出会えた」とか「窮地を切り抜けられた」というような。

以前、ヘアライターの仕事をメインにしていたころ、シャンプーの開発や白髪染めの研究など、新しい事業をやりたい方がいました。もし私がお金持ちだったら、その事業に5000万円くらい投資できるのになあとよく思ったんです。でも、ライターの仕事も、お金を投資するのと同じような効果をもたらすことが時々あるんですよね。

誰かの人生に影響するような記事を書く経験は、何年かに一度、もしかしたら一生に一度しかないかもしれない。でもそれを味わい、文章が持つ力を信じられると、ずっと丁寧に書いていこうと思うはずです。そんなふうに文章の力を信じているライターさんがたくさんいる地球の方が、絶対にいいと思うんです。

クラウドファンディングを通して新しい読者に出会いたかった

寒竹:CORECOLORはページに広告を掲載していないですよね。どう収益を挙げて、運営していくのか気になっていました。

さとゆみ:実際のところ、CORECOLORのサイトだけでは、商業的な運営はできていないです。でも、最初から広告を掲載するつもりはなかったので、それで良いと思っています。

寒竹:私はメディアを運営していくには、広告料から収益を得るのが当たり前だと思い込んでいました。さとゆみさんの考えを聞いて、価値観がひっくり返りました。クラファンを行ったのは資金集めがゴールではないのでしょうか。

さとゆみ:はい、どちらかというと2025年の運営資金を別の仕事で確保できたからクラファンをやってみようと思ったんですよね。今年一年、サイトを継続できる見込みが立ったから、堂々と応援してほしいとお願いできるようになりました。クラファンを行う一番の目的は、新しい読者の方にCORECOLORを知ってもらうことでした。

寒竹:ここまでCORECOLORを運営してきて、どうですか。

さとゆみ:うーん、イメージしていたことはだいたい実現できています。開始当初、1万字のインタビュー記事なんて、読まれるはずがないとか、広告を掲載しないなんてありえないとか、色々言われました。でも、私は、そんなことはないとずっと思っていて。始めてみたら、1万字のインタビューは読まれるとわかった。連載からの書籍化もあるだろうと思っていたら、やはり決まった。「あの記事すごかったね」とCORECOLORの名前を耳にする機会が増えたのも、とても嬉しいです。でも、思ったより遠くまで影響の輪が広がっていたのは想定外でした。

寒竹:遠くまでとは?

さとゆみ:私が想定していなかった化学反応が起こっているとわかりました。読者に伝えるために丁寧に文章を書いていった結果、読み手の中にいる書き手の方たちにも影響を与えていると気が付いたんです。クラファンの応援コメントの中に「誠実に書いていこうと思った」や「自分の言葉を残したいと思った」と書いてありました。読者全般に届けたいとはずっと思っていました。でも、そんなふうに読者の中にいる文章を書いている人たちの気持ちを動かすとは、思ってなかったんです。

寒竹:私は、メディアとは、常に読者へ向かう一方向だけの矢印しかないと思い込んでいました。でもCORECOLORの文章は、書いている仲間やその周りにいる人へも矢印が向いていて、ここは書き手を勇気づける場所だと感じました。だから、心から応援したいと思ったんです。

さとゆみ:ありがとうございます。以前にCORECOLORでインタビューさせていただいた京都のフリーマガジン『ハンケイ500m』の編集長・円城新子さんに「CORECOLORは書いている人たちが主役になっている媒体だ」と言われたんですよね。主役が誰なのかには無自覚でしたが、クラファンの応援コメントを読んで、実感しました。ライターの存在が世の中をよくする。それをこれからもずっと信じていきたいと思うようになりました(了)

寒竹 泉美(かんちく いずみ)
理系ライター・小説家、医学博士 京都大学大学院研究科修了。2009年に講談社Birthから小説家デビュー。「理系ライターズ チーム・パスカル」所属。著作は、小説『月野さんのギター』、『16%の人しか知らない幸せになる健康資産』(共著)ほか。

文:島田 幸江