特に印象に残ったのは「小骨を抜く」話。全方向配慮を意識して書くという視点

ゼミ1期生に、さとゆみがインタビュー。今回お話を伺ったのは、チーズを世に広める活動を行い、コラム執筆も手掛ける佐藤優子(さとうゆうこ)さん。ライティングゼミ受講のきっかけや、書くことを通じて目指すゴールなどを伺いました。

Q1:チーズを広める活動をされ、チーズにまつわるコラムなども執筆される佐藤優子さん。早速ですが、普段の活動と、ライティングゼミを受講してくださった理由を教えていただけますか?

A1:私はライターとしての活動はしていないのですが、チーズ好きが高じて、20年以上チーズを広める活動を続けています。チーズプロフェッショナル協会に所属して、主に講座やセミナーの開催、チーズ検定や国産チーズコンテストの運営などを行っています。書くことは専門ではありませんが、チーズを広める活動を長く続けるうちに、セミナーなどでお話する機会をいただくようになったほか、執筆の依頼が増えてきたんですよね。そういった仕事をお受けするたびに、「これでいいのかな?」と不安になったり、時間がかかってしまったりと、思いどおりに書けないことが、もどかしかったんです。書き終えた原稿を自分で読み返してみても、満足ができなくて。
少しでも苦手意識が克服できるよう、書くコツをつかみたい、という気持ちでゼミに参加しました。ただ、「ビジネスライティングゼミ」というくらいだから、書く仕事を生業にしていない私は、場違いじゃなかったかな、と心配でした。

Q2:いえいえ。むしろ、ご自身のビジネスの中でライティング技術が必要とされる方を対象にしたゼミなので、優子さんのような方をお待ちしていましたよ。ゼミの内容は少しでもお役に立てたでしょうか?

A2:さとゆみさんが今までの積み重ねを惜しみなく教えていただいたおかげで、ゼミの中で「あ、なるほどな」と思う内容がたくさんありました。
特に印象に残ったのは、「小骨を抜く」話で、全方向配慮を意識して書くという視点が参考になりました。文章を書くときもそうですし、人前で話す場面でも、全方位を意識しながら言葉を選んで出さないといけない、という共通点があり、とても役に立つ学びでした。

Q3:書くことと話すことって、実は繋がっていますよね。

A3:本当ですね。ただ、人前で話すときは、相手の顔が見えるので、失礼があってはいけないと意識しやすいんですが、原稿を書くときは、書くことに精いっぱいだったので、そこまで気にする余裕がなかったんですよね。「3000字で書いてください」というご依頼があって、その原稿を埋めるために、自分の知っていることをどう書けばいいかを考えることに必死だったんです。だから、誰がどういう気持ちで読んでくれるか、という先のことまでは想像できていなかったことに気づかされました。

Q4:それはすごく大切な気づきだと思います。文章というのは、書き手と読み手の共同作業で初めて完結するんですよね。だから、ゴールへたどり着くための工夫が求められると思います。セミナーで話すときに相手の顔を見ながら意識して話すことと同じで、書くときには読み手を意識して書くことが大切なんです。

A4:「原稿のゴールをイメージして書く」という言葉が、最初はピンときていなかったんです。でも、たとえば導入部分を読んで「これは自分には関係ないな」と読み進める前に記事を閉じられたり、何気なく使っている言葉が不快に感じられたりしないように、と考えること。こまやかに意識して、読み手の一人ひとりに語りかけるように書かなくてはいけないんだな、と理解できました。この視点は今までの自分にはなかったですが、意識するようになってからは、言葉選びも変わってきました。
そんな意図で書いているわけじゃないのに、うっかり、というところで引っかかってしまう文章は、届けたいことも届けられず、炎上の火種にもなってしまうのはもったいない、ということですよね。

それから、読み手にカロリーを使わせない(読むことに負担をかけない)よう、引っかかる部分を残さないことを意識しながら推敲すると、「ここはちょっとまどろっこしい表現かな?」と、自分でも気づくようになってきました。

Q5:少しはお役に立てていたらいいんだけど…… 

A5:正直なところ、子どものころから不得意だったライティングも、大人になった今なら、書くコツを学べば一朝一夕にもうちょっと器用にできるかな、と思っていたんです。だけど、そんなことは決してなくて、改めて書く難しさを痛感しました。

Q6:優子さんは、ゼミの最中から「まだ全然消化できない」っておっしゃっていましたよね。優子さん、ゼミ中に100マイルのトレイルランニングのレースを完走されていましたが、「100マイル走るより、このゼミの方がきつい」と言ってらっしゃったし。

A6:だって、走るのは前に進めばいいだけですから(笑)。疲れはするけど、足を出せば、前に進むから。だけど、ペンは握っても文字が出てくるとは限らないんですよね。

Q7:「走るのは前に進めばいいだけ」って、名言ですね(笑)。

A7:ほかのゼミ生から挙がってくる質問も、私からすると「なんて高度な質問をしているんだろう!」という感じで。その質問の意図を理解するのに時間がかかってしまうくらいでした。ゼミの中で飛びかう知識を消化するのもひと苦労でした。でも、今思い返しても刺激的な時間でした。
なにより、ゼミメンバーには「伝えたくて仕方がないから、書くことを頑張りたい、それを仕事にしたい」と思っている方が多かったですよね。その姿を目の当たりにして、苦手なことではあるけれど、伝える手段として書くことは持っていた方がいいな、と強く感じました。

Q8:本当に、今の時代は「自分で書ける」人に仕事が集まってきやすいんですよね。「書けること」は大きな強みだな、と実感しています。そして、100マイルを完走できる優子さんのような人は、コツコツと積み上げていくタイプの方だと思います。そういう方は、きっと書けるようになります。ちょっと話は変わりますけれど、優子さんトレランはどういう経緯で始められたんですか?

A8:40代になって、最初はロードマラソンを始めたんです。すると、どんどん走ることが面白くなってきて。ハーフマラソン、フルマラソンにも挑戦し続けてきましたし、一緒に走る仲間やコミュニティもできて、ますます好きになったんですよ。ただ、フルマラソンまでいくと、完走した先はどんどんタイムを縮めていく世界なので、練習もきつくなるし、続けながらも「先が見えちゃったかな」と感じていたころ、トレイルランニングと出合ったんです。
トレランでは、コースの途中で歩いたり、疲れたら休んだり、エイドあったら止まって補給したりと、普通のマラソンと走り方が変わるんですよね。山の中や自然の中を走りますので、そこで出合う非日常的な風景は素晴らしいです。今までのロードマラソンと違う装備や技術が求められますし、それが面白かったんでしょうね。ランニングチームに入ってコーチに師事しながら継続しています。今、5年目です。

Q9:5年間、コツコツと積み上げるストイックさがあれば、文章を書くことも上達していくと思います。きっと優子さんなら1年もかからないうちに、書く筋肉がしっかりついてくると思います。トレランをされていると、走っていないときでも普段の歩き方や姿勢なども気にされますよね。
それと同じで、「書かない時間に書く人の視点で意識を向けてみる」ことが、また書く練習でもあるんですよね。今回のゼミでは「怪我をしない正しいフォーム」をお伝えしたので、ぜひ書き続けてさらに
筋肉をつけてもらえたら、と思います。

A9:今はまだまだなかなか成果は出せていないですけど、これからどんどん血となり肉となるのかな、と思います。時間がかかっても、地道に書き続けていけば少しは変われることを期待して、これからも精進します。ただ、どうしてもうまく書けなくて、やっぱり苦手だな、とも感じました。

Q10:特に難しいと思われた点ってどんなところでしたか?

A10:構成の作り方ですかね。どういう順番で並べる文章が惹きつけるものなのかが、うまくつかめていなくて。

Q11:ある女性メディアの編集部の方から教えていただいたのですが、「特にウェブメディアの場合は時系列ではなく、いちばん面白いシーンか結論から書くべき」なんですって。そこから先の文章がどういう順番で書かれていくか「お品書き」を書いておくと、読者も心づもりをしながら読んでくれる、ということをポイントとして伺いました。

A11:まず、つかみを持ってくる、ということですね。それは私がセミナーのとき「今日は全体を通して1時間半でお話します。だいたい○○の話を何分くらいして、試食を何時何分からの予定で……」と冒頭で概要をお伝えするのと近いような形でしょうか。
エピソードから入ると読者が自分ごとのように気持ちを近づけてから、本題に入って、結論を出すという「エピソードファースト」文章の型も教えていただきましたよね。

Q12:構成に正解はないから、どんな型でも文章は書けますし、時系列で書くときは書いてもいいんです。だけど、人に読まれやすい型として、ゼミの中でお伝えした「エピソードファースト」の型と、今回お伝えしたようなお品書きを作る型、いろんな型を使ってみるといいですね。

A12:なるほど。それと、書く前の姿勢で教わった「取材者の目線で世の中と対峙する」という話は、今でもうまく落とし込めていなくて。

Q13:たとえば、チーズのことだったら、仕事以外の場面でも、考えることってありませんか?

A13:あります。何かしながら「次の講義で何を話そう」「今度はこんな料理を紹介しよう」とか考えて、試しに料理を作ってみることもあります。

Q14:そうやって仕事以外でチーズについて考える時間が、優子さんの中の知識や話すことがますます深くなっていきますよね。書くことも同じで、読者目線だったところから、書き手として文章に接するようになると「あ、この人またちょっと違った面白い書き方をするな」と発見ができて、その手法を学べるようになると思うんですよね。

A14:以前、レストランに行っておいしい料理が出てきたときに、料理の話に限らず、内装や食器、関係者のこだわりでも、さらに広げた質問をすることが良い、とアドバイスしていただいたのとも繋がる部分ですよね。やっぱり日常から習慣をつけるということなんですね。
書くテクニックだけではなく、物事を深掘りして、相手をよく見て、ほかの人の立場を考えて……と、書く心持ちや、原稿への向き合い方などをたくさん教えいただいたな、と思っています。
時間はかかってしまいますが、少しずつ消化していけたらな、と思います。飽きずに続けられる性分なので、いつかはすらすら書けるようになることを期待しながら続けてみます。これからも、見守っていただけたらありがたいです。

Q15:時間がかかることは決して悪いことじゃないです。筋肉と同じで、時間をかけて身につけた力は、裏切りません。これからもゼミの内容をゆっくりと実践しながら消化していただけたら嬉しいです。この先の目標を聞かせていただいてもいいですか?

A15:まずはわかりやすく、読者に伝わる文章がすらすらと書けるようになりたいと思いつつ、自分の文章が淡白な気がしていて。平易な文章になっていることが実は悩みなので、いつかはもうちょっとカッコいい文章を書けたらいいな、と思います。

Q16:平易な文章を書けることは素晴らしいことだと思います。カッコいい文章を書くにも、それが常に土台になるはずなので。優子さんは、ゼミの最中にもどんどん文章が切れ味良くなってきたと思っていますし、この先も応援しています。最後になりますが、2期生を考えている人へのメッセージをいただけますか?

A16:このライティングゼミでは書くことの上達に向けて「これならできるかも」と思えるような具体的なことや、書くための心持ちなどを、たくさん教えていただけて、「書くこと」に対する姿勢も改まります。書けるようになりたいな、と思っている人がいらっしゃったら、ぜひとも新しい扉を開きにきていただいたらいいんじゃないかな、と思います。私はノックして入ったときは足がすくんでしまいましたが(笑)、新しい扉を開けて中に入れたな、という気はしています。まだ迷っている方がいたら、一歩前に進んだ方が良いですよ、とお伝えしたいです。

(文/構成・ウサミ)

プロフィール
佐藤優子(さとうゆうこ)

25年前から当時はまだ珍しかったナチュラルチーズにはまり、片っ端から食べまくるようになる。気がつけばチーズの美味しさや多様性を伝える「チーズの伝道師」として講座やイベントを年間50本以上担当。25年間毎日食べ続けているチーズのおかげで、50歳をすぎてから100マイル(160km)のトレイルランニングレースを31時間で完走。天然のエナジーフードであるチーズの栄養効果や魅力を広く伝えていく活動をさらに広げていく予定。著書に「日本のナチュラルチーズ」(虹有社)。NPO法人チーズプロフェッショナル協会顧問。