英語を日本語に翻訳する業務が、わかりやすい文章を書くことに役立ちました

さとゆみビジネスライティングゼミ3期生の「ゆり」こと、伊藤ゆり子さん。伊藤さんは、お仕事でWebサイトのインタビュー記事の企画・構成などをしているそうです。海外の方とのやりとりも多く、英語を日本語に翻訳して伝えることは、「書くこと」と共通点があったと話してくれました。ゼミでの思い出や、現在のお仕事、学生時代に勉強していた非言語コミュニケーションについてなどを、さとゆみがインタビューしました。


Q1:自己紹介をお願いします。

A1:3期土曜コースの伊藤ゆり子です。メーカーで、一般消費者向けのマーケティングコミュニケーションの仕事をしています。マーケティングの分野に携わってからは16、7年が経ちました。ここ数年は管理職としてメンバーをサポートする立場でもあります。それをきっかけに、人材教育や若手の成長サポートに興味を持つようになりました。一昨年コーチングの勉強をして、会社の仕事とは別に、ほそぼそとコーチングも行っています。

Q2:今のお仕事をしながら、「書くことを勉強しよう」と思ったのはなぜですか?

A2:小さなきっかけがたくさん積み上がって、今回申し込みしました。

元々、コミュケーションや言葉といった「人が何かを表現する」ことにとても関心がありました。

大学では、非言語コミュニケーションや異文化間コミュニケーションを勉強していました。専攻は英語でしたが、日本語教師養成コースを取るなど、言葉漬けの学生時代を送っていたんです。

大学を卒業して仕事を始めてから、文章を書いたり、誰かの書いた文章を確認する機会が増えました。販促物の企画制作をやっていたので、Webサイトに掲載するちょっとした文章を書いたり、メンバーシップ向けの会報誌を作ったり、商品につけるコピーを考えたりしていました。

今考えると、なぜライターさんに依頼しなかったんだろうと思いますが、当時は全部自分で書いていたんです。キッチン用品の販売に携わっていた時期は、お料理に関しての文章をたくさん書きました。レシピを書くとき、「あ、お醤油が抜けた。情報を漏らさず書くってむずかしいな」「どうしたらわかりやすく伝わるんだろう」などとよく頭を悩ませていました。

現在は、アウトドア関連のメーカーで、Webサイトにあるインタビューページの企画を担当しています。登山家さんやトレイルランナーさん、トレイルランニングの大会で救護活動をしている方など、様々なインタビューを企画しているんです。

取材には、ライターさん、ディレクターさん、カメラマンさんと私の4名で伺います。ライターさんが話を聞いて原稿を書いてくださって、私は原稿を校正したり、修正依頼をしたりしています。取材で聞いたお話が一本の原稿にまとまっていく過程を見て、「すごい技術だな」といつも思っていました。取材相手の方の中には、話すことに慣れていない方もいらっしゃいます。あっちに行ったり、こっちに行ったりしたお話を、読みやすく一つの流れにまとめていて、ライターさんの仕事は素晴らしい仕事だと思っていました。

私、すごいことをやっている人を見ると、「自分もちょっと近づけないかしら」って何でも思っちゃうんです(笑)。書くこと自体は好きだし、私にもできないかなとぼんやり考えていました。そんなときに、偶然さとゆみさんの『書く仕事がしたい』を読んで、ライターの仕事がどんなものか、初めてはっきりとわかりました。私もやってみたいと、今回申し込みました。すみません、長くなっちゃった。

Q3:全然大丈夫ですよ(笑)。少し遡って聞いてもいいですか? 大学時代、非言語コミュニケーションや異文化間コミュニケーションを学んだと話してくれました。どうしてその分野を勉強したいと思ったんでしょう?

A3:それが、あまりよく覚えていなくって。大学受験のときは、英語学科に行こうと考えていました。私の通った大学は、英語学科の中にいくつかのコースがあったんです。たしか、国際政治コース、言語学コース、コミュニケーションコースがあって、私はコミュニケーションコースを選択しました。

Q4:非言語コミュニケーションや異文化間コミュニケーションとは、具体的にどんなことを勉強するんですか?

A4:私は主に日本と海外のコミュニケーションの違いを学んでいました。たとえば、パーソナルスペースの取り方や、笑うタイミングの違いなどです。リサーチより、文献から調べることが多かったと思います。すごく面白かったです。

たとえば、パーソナルスペースには国民性が強く出ます。日本人はハグをする習慣がないので、ハグをする地域の人々と比べると、パーソナルスペースを広く取っているんです。スペースがあるほうが心地良いし、攻撃されないという安心感があるのではないでしょうか。

笑うタイミングでいうと、たとえば、「ギリギリで電車に乗れなかった」というシーンを想像してみてください。ホームに向かってバーッと階段を駆け上ったけど、目の前でドアが閉まってしまった。こんなとき、日本人はヘラっと笑う方が多いけれど、ある地域の方は本気でイラッとして「畜生!」と悔しがるそうです。

Q5:なるほど。

私、今、非言語コミュニケーションや異文化言語に興味があるんです。AIが文章を書くようになって、人間がAIと差を生む範囲はどこになるんだろうと考えたときに、非言語のコミュニケーションがこの先重要な役割を果たしていくんじゃないのかなと思っているんです。ゆりちゃんの話を興味深く聞いていました。

大学を卒業して、就職した先でマーケティングのお仕事をするようになったんですか?

A5:新卒のときは、結婚式場でイベントコーディネーターをやっていました。当時、『ウェディング・プランナー』という映画が流行っていて、「私もなりたい!」と歴史のある結婚式場に就職したんです。でも、残念ながら婚礼の仕事をしている部署に配属されなくて、法人向けの営業やイベントコーディネーションなどの仕事をしていました。

Q6:ゆりちゃんって、わりと慎重に判断するタイプなのかなと思っていたけど、映画の影響でぽんと就職したりするんだね(笑)。

ゼミで書くレッスンをしてみて、どうでしたか?

A6:すっごく面白かった。楽しかったというより、すっごく面白かったです。

「何文字以内でこのテーマについて書き、いつまでに提出してください」という課題を毎週出されるのは、普通に仕事をしていたら、なかなか有り得ないシチュエーションだと思います。課題をやるために、普段自分が使っていない脳みそのパーツをものすごい勢いで動かして、なんとか納品物を作り出していく。この過程がとても面白かったです。

Q7:「楽しかったというより、すっごく面白かった」と言い換えたけれど、その違いはなんでしょうか?

A7:必ずしも「楽しい」と言うわけではなくって……(笑)。きつい部分もありました。でも、どうにかして解決すると、最後に目に見える形になる。そこが面白かったです。誰かに聞いたり、赤字をもらったりしながら、一つ一つ解決して乗り越えていくことに、ワクワクしていました。
自分のアウトプットに対するフィードバックをもらえることも、面白さの一つとして大きかったです。原稿に対して、日本語の誤りはもちろん、考え方に対するフィードバックがもらえる。さとゆみさんだけでなく、他のゼミ生からも感想をもらえますし、双方向のやりとりが面白かったです。

Q8:印象に残っているフィードバックはありますか?

A8:私は、さとゆみさんへのインタビュー課題が一番きつかったんです。書きたいことがたくさんあって、原稿に何を入れて何を落とすか、すごく悩んでめちゃめちゃ時間がかかりました。書いているうちに、さとゆみさんの半生をなぞっているだけで、軸がなくなっているんじゃないかとすごく気になっていたんです。

でも、提出してみたら、さとゆみさんに「情報がすごく詰まっている」と講評をいただきました。ゼミ生にも、「軸をぶらさずにこんなに情報を詰められていてすごい」と感想をくれた方がいて。私が考えていたことと真逆だったので、「人から見たらそう見えるの」と驚いたんです。他の課題でも、自分の考えとは違うことを言ってもらえる機会が多かったので、「自分のことってわからないものね」と感じました。

Q9:情報の密度の話をすると、情報がたくさん入っていて読みやすい原稿と、ただ詰まっているだけの原稿の差はある。全然文章の風通しが違うんです。

何か一つのメッセージを伝えようとして、それを補強するために情報を詰めているときと、様々な情報が単発で詰まっているときは、読みやすさ・わかりやすさが違うと思います。バラバラの仲間たちが詰まっていると、とても息苦しい。でも、そこにストーリーラインを作って並べてあげると、情報が詰まっていても読みやすい原稿になると思います。

A9:課題を通して、誰がどんなシチュエーションで読むのか、考えて書くことが大事だなと思いました。

私は仕事で海外の方とのやりとりが多いので、「ここまで説明しないと相手に伝わらないのか」と、コミュニケーションの難しさを日々感じています。相手の方によっては「察する」ことが難しいので、こちらもきちんと伝えるし、相手の方にも言葉にしてもらうように心がけています。

課題の中で、楽しくできたのは、ゲスト講師の方のセミナーレポートです。ゲスト講師の方がおっしゃった言葉を、そのまま文字にして読み手に伝わるかどうかは常に考えるようにしていました。仕事で海外の方の言葉を日本語に翻訳しているからか、読み手に対してわかりやすく、綺麗に整えてお届けするのは、苦手じゃないと思いました。普段の仕事が書くことに役立つのは驚きましたし、共通点がたくさんあって面白いなと感じました。

Q10:『書く仕事がしたい』に書いた通り、私はライターに一番近い仕事は翻訳家だと思っています。「物を書く仕事」というと小説家をイメージしがちだけれど、小説家はライターとは全然違う職業。翻訳家のほうが、断然近いと思っています。翻訳家は、ものすごく精度の高い日本語に置き換えなければならない職業ですよね。日本語に対する高度な理解が必要になってくる。だから、私たちは、翻訳家の日本語に対する誠実さを学ばなければいけないといつも思っています。

A10:私も翻訳するときは、時間をかけて、どの言葉を選ぶか気を遣っています。外国語をそのまま日本語に置き換えても、文章として読むと意味が通じないんです。相手の方の文化圏で当たり前のことも、説明されないと結局何が言いたいのかわからない。なので、そのときは、私のほうで少し説明をつけ加えたりしているんです。仕事での翻訳作業と、ライターの仕事はとても似ているなと気がつきました。

Q11:似ていると思います。ライターの場合、日本人同士だから分かり合えるだろうと思ってしまいがちだけれど、実は日本語が意図通りに正しく伝わることも限らない。だから、英語から日本語に翻訳するときと同じくらい、丁寧に翻訳してあげなければならないと思います。難しいことだけれど、それをやるのがライターの仕事だと思います。

ゼミを受ける前と後で、変わったことはありますか?

A11:翻訳に対する意識が一番大きく変わったかなと思います。今までそれほど意識していなかったけれど、「もっと丁寧にやろう」と思うようになりました。

人の原稿を読むのも、いい経験になりました。一つの題材を、いろんな人がいろんな角度で書く機会はそうそうないと思います。視点や切り口、言葉遣いが一人一人違うので、面白いですし、とても勉強になりました。今後は、ゼミで勉強したことを、普段自分が書いている文章にどう展開していくかが課題だと感じています。推し原稿やセミナーレポート課題、インタビュー課題など、ゼミでやったテーマと同じであれば、ポイントを教えていただいたので、上手くスライドしていけるはずです。でも、たとえばエッセイだったり、別のお題になったときに、「ゼミで勉強したことを展開していけるのか、私!?」と、問いかけています。

Q12:エッセイは横展開が難しいジャンルかなと思います。なぜなら、エッセイは文章力だけで読ませるものではないからです。もちろん、文章が上手い人のエッセイは読みやすい。でも、読者の方は、読みやすい文章のエッセイを面白いと思っているわけではないと思うんです。エッセイに書かれている着眼点や新しい物の見方が面白いから、面白いと感じているんでしょうね。

ライターは、書く前のインタビューでどれだけ素材を集められたかで、勝負が7割決まっていると思います。エッセイストの場合は、どんな切り口でどの側面から物事を見るのか、どんな思考をしたのかという点で、ある程度勝負が決まってくるのかなと考えています。ライターの素材はインタビュー相手が持っているけれど、エッセイストの素材は自分自身にある。自家発電しなくちゃいけないんです。だから、ゼミで教わったことをそのままエッセイにスライドできるかというと、そうではないかもしれません。

A12:タックさんとのインタビューでも話していましたよね。着眼点ということでしょうか。

Q13:着眼点と思考の深さかな。思考のオリジナリティと深さがエッセイには必要なのではないかと感じます。そこが日記やブログとの圧倒的な違いだと思います。かと言って、私もエッセイについてはまだわからないことが多いのだけれど。

今日起こったことを書くのではなく、今日起こったことから得た気づきを書いていくのがエッセイなのかなと思うんです。

日本で一番古いエッセイである清少納言の『枕草子』も、一行目から「春ってあけぼのじゃないっすか!?」という大発見から始まっているじゃない(笑)? 「春って桜が綺麗だよね」ではなくて、「春はあけぼのやろ」という発見がある。だから読者も、「今まで誰も言ったことがなかったけど、そうだよね」と思った。「冬はつとめて」だってそう。「昼間の燃え尽きた炭はダサいじゃん」という、観察眼の鋭さがある。清少納言は、物事を観察して、さらに思考して書いていると思います。

ライターも、一生懸命生きたり、いろんなものをよく見て生きていくことが、いい原稿を書くことに繋がっていきます。でも、エッセイストやコラムニストのほうが、それが如実に出るんじゃないのかな。ライターの場合は、相手からの反作用で書くというか、相手からエネルギーをもらって、それをどれだけ増幅して世の中に届けられるかが鍵になるけれど、エッセイストやコラムニストは自分のほうにエネルギーが必要。自分でカメハメ波を打たなくちゃいけないイメージです(笑)。

「物事を観察して、思考する」ような課題は、あまりゼミでやっていないから、エッセイを書きたいと思う人には、ゼミでの勉強だけだと、ちょっと武器が足りていないかもしれない。でも、ゆりちゃんの普段の仕事や生活で気づいたことがそのまま武器になる可能性があるから、教わらなくても書ける可能性がある。エッセイは、教わって書くものでもないという考えもあると思います。ゆりちゃんはできそうな気がするから、ぜひ書いてみてください。

A13:そうですか?

Q14:ゆりちゃんには、言葉の引き出しが多いと思うんですよね。学生時代から現在に至るまで、言葉とかなり深く向き合っていて、気づいたことがたくさんあるんじゃないかな。業界が違っても、マーケティングのお仕事を長い間やってきたわけだから、その違いや重なっている部分を見ても、思考の縦軸と横軸になる。それに、人材教育もしているから。いろんな経験の引き出しがあって、且つ言葉に対しても深く思考した時期があって、ずっと書き続けてきたのであれば、人とは違う着眼点があるように思います。

この先は、書くことに関してやりたいことはありますか?

A14:エッセイも書いてみたいなと思っていますが、インタビュー記事を書いていきたいなと思っています。

人材育成の仕事をしていると、人の話をじっくり聞く機会があるんです。話に耳を傾けていると、何を思っているのか、どんなことをやりたいのか、その人の個性や魅力がどんどん出てきます。でも、その個性や魅力って、会社のメンバーに全然伝わっていないんです。普段言葉にしてぐいぐい表現することはないけれど、実は深く物事を考えていたり、良いアイデアや素敵な夢を持っている方が多い。だから、その人の考えていることや個性、魅力を伝えていけるような文章が書けたらいいなと思っています。

Q15:それはとても尊い仕事ですよねえ。ライターの仕事の尊さは、相手の思考を言語化してあげることにあると思います。たくさん問いを重ねて、自分が考えていることを、自分の言葉で言えるようになる手伝いをすることって、すごく尊いことではないかと感じています。

たとえば、有名な先生が素晴らしい格言を言っていて、それを原稿に書いたとします。読んだ方が「この格言を意識して生きていこう」と心に留めるのは、一つの言葉のプレゼントになると思う。でも、それ以上に、人生において力になるのは、人の言葉じゃなくて、自分で考えた言葉だと思うんですよね。「私はこんなふうに生きていきたい」「ここが私の美徳だと思う」と自分で気づいた言葉は、誰かの格言以上にその先の人生を支えてくれる。言葉を引き出してあげるインタビューや、コーチングって、とても尊くていい仕事だと思います。

ゆりちゃんのやりたいことは、会社のインナーコミュニケーションを強くしていくんじゃないかな。勢いのある会社は、インナーコミュニケーションが上手くいっているところが多いですよね。ライターとして会社の活性化に寄与できるって、すごくいいなと思っています。

A15:そういうの、すごくやってみたいです。

せっかく会社員として働いているので、書く力を会社で役立てていけたらいいなと考えています。社内のコミュニケーションを促進したり、会社の魅力を外に発信したり、そういうことができたらいいなと思って。

今の仕事は、著名な方に取材することが多いんです。とても面白いですし、やりがいも感じています。でも、「あなたの隣に座って仕事をしている人は、実はこんなことを考えているんですよ」と伝えて、「えー!? そうだったの!?」と驚いてもらうのも、すごく面白そうだなと思うんです。「恥ずかしくて言えないけれど、本当はこう思っている」という内側に秘めた想いを、私がツンツンして聞き出して、言葉にするお手伝いができたら楽しそうだなと考えています。

私にはライターの経験がないので、まずは『CORECOLOR』で書いていけたらいいなと思っているんです。お芝居をよく観に行くので、レビューであれば私にも書ける機会があるのかなと考えていて。でも、レビューを書くのがすでに苦手なんです。自分の感情を言葉にすることに抵抗があって。「感動した」「楽しかった」と言葉にすると、解像度が上がってしまう。感情は「ふわっとさせておきたい」という気持ちがあるんです。

Q16:それは、どうしてでしょう?

A16:お芝居に通っているうちに、だんだん俳優さんを覚えて、いろんな情報が頭に入ってくるようになったんです。そうすると、「この俳優さんは、この前あの舞台に出ていた人だな」「以前やっていたあの役と少し話し方が似ているな」などと、分析しながらお芝居を観るようになってしまって。左脳で観ているというか、お芝居に入っていけなくて、次第に感動できなくなってしまいました。

でも、あるときたまたま、私の知らない俳優さんばかりが出演しているお芝居を観る機会があったんです。俳優さんの情報がないから、分析することなく、お芝居の世界にガーっと入っていけて、めちゃくちゃ感動しました。「これだよ、これ!!」って。分析しなかったからこんなに楽しめたのかなと思うと、せっかく感じた心の動きを言葉にするのに抵抗を覚えてしまって……。

心の動きを書くのがレビューなんでしょうか? レビューって、一体何を書くのだろうと、ちょっと今そわそわしています。

Q17:『CORECOLOR』では、その作品を観て、自分がどんな思考の旅をしたのかを書いてほしいとお願いしています。だから、考えたことを書くのがもったいないなと思うのであれば、やらないほうがいいのかもしれません。

私は、人生の豊かさを減らしてまで書く必要はないと思う。でも、書くことによって、もう一回その作品を楽しめるときもある。観ていたときには気づかなかったけれど、「ひょっとしてこういうことだったのかも」と考える、二度目の楽しみを味わえるときがあるんです。インタビューでも同じことが起こっていると思います。聞いているときにも発見はあるのだけど、書いているときにもう一段階深く何かを発見することがある。レビューも、二度目の楽しみを味わうために使えるんだったら、書いてみてもいいと思う。

レビューの定義は媒体によって違います。俳優さんの過去の演技と比べて分析を書くことをレビューとしている媒体もあります。でも、『CORECOLOR』のレビューでは、その物語を見て、自分がどんな旅路をしたのかを書いてほしいなと私は思っているんです。

A17:書きながらもう1回楽しめるのか。

Q18:私は書籍や映画をそうやって楽しむタイプなんだけど、書かないほうが良かったなと思う人もいるんじゃないのかな。

たとえば、人の死について書くとします。書くことでいつでも思い出せるようになるし、書かないと忘れてしまうこともある。でも、その一方で、書いた通りにしか思い出せなくなってしまうこともある。

文章を書くことは、「少なくする」ことなんです。あらゆる可能性を一つに限定してしまうこと。本当はもっと豊かな広がりがあったはずなのに、その可能性がなくなってしまうことを悲しいと思うか、たくさんもらったものを一つに集約して残すことに価値を感じるかは、人による。100あったことを1に凝縮するときに、自分は何を1として残すのか。これを楽しめる人は、レビューを書くといいと思います。

A18:なるほど、深い。書くことは本当に良し悪しだなと思いました。

Q19:深いんだよね。文章を書くことは、可能性を減らすことなんです。書く前は何にでもなれるけど、書いたらもう、必ず減っている。減ってもなお、豊かであれば、もう一回命を与えられる可能性がある。演劇を観て感じたことだけじゃなくて、思考したことを書いて、読み直したときにその作品がもう一回生き返ることもあると思います。

それから、ゆりちゃん、感じたことと思考したことは別だよ。

A19:やっぱり?! ちょっと、そこが気になっていました。

Q20:必ずしも、「感じたこと」を書く必要はないと思います。感動した、楽しかった、嬉しかった、涙が出た、とうのは、別に書かなくてもいい。そうではなくて、なぜ感動したのか、なぜ楽しかったのか、思考したことを書いてほしい。

これは、『CORECOLOR』の編集長としての編集方針だけれど、感じたことは書いても書かなくてもいい。でも、思考したことのほうは、必ず書いてほしいと思っています。思考したことは、感じたことを書かなくても書けるはずです。感じたことを書くのは抵抗があっても、思考したことは書ける可能性があると思う。

A20:感じたことを書かなくても、思考したことは書ける。

思考した先には、感じたことがありますか?

Q21:思考した先に感じることは、劇中に感じたことじゃない可能性もあると思います。「感じる」は第一次感情。思考は第一次感情とは別の、また先にあるもの。だから、書いているときに感じ直しが起こる。それが「二度楽しむ」ことなんじゃないのかなと思います。

「読書感想文」は「感じて想う」と書きます。だから、まず感じることが大事なんだけど、感じたことだけでは「感想文」にならない。「何を思ったのか、何を想像したのか」を書くのが感想文なんだと思います。感想文は、「想う」ほうが大事なんじゃないかなと私は考えています。これは、まだ暫定解だけれど。

『CORECOLOR』のレビューでは、「楽しかったです」という感想を読みたいわけではなく、「何が楽しかったんだろう。それからどんなことを思いついたんだっけ」という思考のほうを知りたいなと思っています。ぜひ、『CORECOLOR』で掲載しているレビューを読んでみてください。ライター未経験でうちのゼミに来てくれた方も、すごく良い原稿を書いてくれています。
(※『CORECOLOR』のレビューはこちら

A21:読んでみます。一度はやってみようと思いました。

さとゆみゼミで学んだ書く技術を、普段の仕事や社内インタビュー、エッセイ、レビューなど、いろんな場面で活かしていきます。今日はありがとうございました。


(構成・文/玄川 阿紀)

プロフィール
伊藤ゆり子(いとうゆりこ)

メーカーに勤務する会社員。転職をしながら、約16年間海外ブランドのPR・マーケティングコミュニケーションに従事。うち10年は食業界。10年ほどの管理職経験から人材育成や個人の成長サポートに興味をもち、2021年にコーチングの資格を取得。ビジネスコーチングも行う。人の個性や魅力、想いに輪郭をつけ、書くことでも応援していきたい。
趣味は旅行、スポーツ、観劇、食べることの4本立て。